第24話 国王陛下(1)


 白髪で髭をたくわえ、年齢を重ねた皺を顔に刻んでいるけれど、その冷たいほど整った鋭い顔つきや背の高く立派な体格は、大人になった時のエドワードが重なるほどよく似ていた。




「おじいさま……」


「……! 国王陛下」


 慌てて礼をする。


「よい、頭を上げよ。回復したと聞いて顔を見に来ただけだ」




 じろっ、と目玉だけが動きウィリアムを見下ろすと、ビクッと少年の肩が動いた。

 王の瞳は鮮やかな紫、王家の正当なる継承者の証だ。




「お前たちが、まだ生きているならーー今はそれで良いとしよう」




 あのやんちゃなウィリアムが萎縮していて、わたしは驚く。

 同時に、表面上では穏やかな微笑みを浮かべるエドワードの意識も、国王の一挙手一投足をひどく警戒して、感覚を研ぎ澄ませているのが分かった。


 これは王の威厳が引き出す反応?

 威厳というよりも威圧ーー?


 一度目の人生でも、こんなに間近で国王を見たことはなかった。本当はあの16歳の儀式で、エドワードに王家の冠と秘宝を授ける時に相見(あいまみ)える予定だった国王様。




「……ありがとうございます、陛下」





 縮こまって口を開けない弟に代わって、エドワードが受け答えした。




「エドワード二世(・・)よ」


「はい」


「ふんっ。お前は成人前に命を危険に晒すな。一報があったときには、死に目に間に合わぬかと焦ったではないか」




 孫を心配する言葉なのに、どこか冷酷な響き。


 病弱な妹を愛したという話や一度目の人生で聞いていたような言動とは、この冷たい目をした老人の姿が、どうしてもうまく噛み合わなかった。


 1度目のこの夏、国王は瀕死のウィリアムに一目会うためだけに、わざわざ王都からかけつけた。




 急な王子危篤の知らせを聞くと、全ての政務を投げ出してまでウィリアムのもとへと向かったという。


 そして大切な孫を失ったことをきっかけに体調を壊し、以来エドワードが成人するときでさえも、表に出ることは滅多になくなっていたはず……。


 もちろん、1度目とは事故の結末が大きく変わっている。

 でも、てっきり家族思いの、情に篤い王だとばかり思っていた。




 なのに……。





 王がついでとばかりにわたしを目に止めた時、ククッとくぐもった笑い声をもらした。




「ところで二世(・・)よ、その娘だな」

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