第21話 この命のある限り(2)
お父さまにわがままを言って、この部屋まで教師を呼ぶようになり、学べることをできるだけ吸収した。
ダンスや護身術まではさすがに許可されなかったけれど、この体にできることを精一杯身につけていく過程は、わたしに充実した時間をもたらした。
優秀な生徒を見てきた教師たちも驚くような速度で、わたしは多くを身につけていった。
ときには無理のしすぎだと、お父さまや教師たちの方が止めようとした。
けれど不思議なもので、この頃からむしろ少しずつ発熱の頻度は減っていったと思う。
16になる頃には幸運もあって、公務の助けになる能力と、騙し騙し動かせる体を手にしていた。
その全てで、エドワードの隣で彼を支えるつもりだったーー。
けれど、あの結婚式の前夜にすべては剣で切り裂かれてしまい、そんな未来はこなかったのだ……。
夢から醒めると、わたしの目から涙がこぼれた。
なぜなのかは、うまく言葉にできなかった。
⌘ ⌘ ⌘
熱が落ち着いたあと、この夏のあいだは王子たちがわたしの「お見舞い」に来ると言われた。
実質「お見舞い」という名の遊び相手として、通ってくるのだ。
一度目の人生ではなかった小さな変化は嬉しい知らせだった。
この夏はむしろ彼らと顔を合わせる機会が減るとばかり思っていたから。
だって、ウィリアムが無事なのだから。
つまり王太子夫妻は気落ちすることなく、わたしの父が頻繁に王家を訪問する未来もなくなる。
巡り巡って、お父さまに連れられて、わたしが度々あの屋敷を訪ねることもないだろう、と……。
それはつまり、王家の住まい全体に漂っていた悲しみが消えるということ。
同時に、わたしとエドワードが寄り添い語り合って過ごしたこの夏もなくなる。
ーー図書館で静かに肩を並べて本を読んだ記憶。
ーー偶然入り込んでしまった部屋で、あるはずのないものを目にした冒険。
ーーそして、失った痛みを抱えながらも、生きている命を大切にしようと、宝玉に誓いあった願い。
あの二人で過ごした思い出は、エドワードがいかに尊敬できる人か認識する時間にもなった。
あの日々はなかったことになるーー。
ウィリアムが助かったならそれでも構わないと思っていたけれど、元気な彼らと会えるのは嬉しい誤算だった。
(1度目の人生では、王子の遊び相手ではなく、慰問で会ったのだった……)
違う理由で顔を見られる喜び。
改めてこの2度目の人生での幸運を噛み締める。
夏の終わりが近づいたこの日も、エドワードとウィリアムとの約束の時間まで、わたしはしばし物思いに耽った。
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