第20話 この命のある限り(1)
「ふたりなら何でもできそうで、心強いって思わない? 僕は身軽に動けるし、君は観察力があってよく気づく。僕は土地に赴いて今を知り、君は書物をひもといて過去を学び、成長していく」
彼は笑った。
「ね? 僕らなら、いたずらだろうと宝探しだろうと、国を導いていく仲間としてだって、死角がないじゃないかな?」
と、楽しそうに。
そのとき胸がどくんと大きく鼓動するのを感じた。
彼にとっては、何気ない言葉だったのかもしれない。
けれど、人並みの体ももたないわたしを、彼はそんな風に扱ってくれる。
父やメイド達はわたしを大切にはしてくれる。
けれど、なにかの働きを期待することはない。
子どもらしく野を駆けることも。
華々しい社交界デビューも。
恐らくは、王家の世継ぎを産むことも――。
ただ生きていてくれるだけでいい。
それはもちろん仕方がないことだ。むしろその愛に感謝している。
だって、庭先をいつもより長く歩き回っただけで目眩を起こしてしまう子どもなのだから。
でも……だからこそ、嬉しい。
エドワードの言葉がたまらなく嬉しかった。
自分ですら、こんな体では王子の婚約者というのも形式上の存在だろうと受け止めていた。
なのに、エドワードは違うのだ。
わたしだからこそ役に立てる。
どこにでも駆けつけられる脚がなくても、その代わりにベットの上で知った知識でいい。
冷たく凍り付いた海も、南国の密林も見ることができない眼だとしても、代わりに隣にいる相手を見て気づいたことにも価値がある。
子を産めない婚約者でも、王を支えられる。
わたし自身、ついどこかで自分を諦めていたのかもしれない……。
彼がまぶしくて、同時に、そんな彼から対等に役割を期待されたことが誇らしくて、胸がじんわりと温かくなった。
わたしでも……わたしだからこそ必要としてくれる相手がいる。
ーー必要としてくださるなら、命の限り、あなたを隣で支えたい……。
心のなかで水位を増していた虚しさや焦りが、静かに消え始めた瞬間だった。
⌘ ⌘ ⌘
あの日から、わたしはさらに知りたいことが溢れてきて、片っ端から本を読んだ。
初めての友人・エドワードと次に会ったとき、きっと彼はまた新しい世界を知っていて、その話をしてくれる。わたしも、そんな彼に負けないような成長をして、エドワードを感心させたかった。
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