第18話 記憶~エドワード~(2)


 質素な装いでも隠せないほど整った顔立ちだったけれど、こうして髪を整え、上質な上着を着こなしている彼は、落ち着きある王者の気配をまとってさえいた。


 明るい陽の光の下だと瞳の紫が明るく見えて、いっそう際立つ。




 対して、わたしは先日とおなじく白いゆったりしたワンピース姿で、ベットに身を起こしていた。


 すでにこの身なりを見られていたので、開き直って堂々とする他ない。





「殿下は隠していらっしゃいましたけれどーー」



「待って! ふたりの時だけでも、この前みたいに喋ってほしい。せっかく友だちになれたと思ったんだ」



 その言葉が嬉しくて、ふふっと笑ってしまう。



「わたしもでーーわたしもそう思った」





 本当は友だちではなく生まれた時からの婚約者なのだけれど、この時はすっかりふたりとも頭からそのことが抜け落ちていた。




「この前は名乗れなかったけれど、僕のことはエドワードと呼んで」



「エドワード。どうぞよろしく」



 彼はにっこりと笑った。



「それで、どうして僕が分かったの? 会うのはあの時が初めてだったよ」



「ええと……、一個ずつは小さなことなのだけれど、気づいた理由はいくつかあったわ」



「なんだろうーー? 口調がらしくなかったかなぁ」




 それも多少はあったかもしれない。


 彼は騎士見習いとして下働きする少年たちと比べると、明らかに上品すぎた。


 わたしはこの部屋から動けない代わりに、窓から聞こえる会話をよく聞いていた。我が家にやって来る見習い少年たちは、丁寧な言葉遣いには慣れていないようだった。




 それに、わたしがエドワードに対して感じたもうひとつの違和感は、清潔すぎる服装や、独特な手をしていたから。


 もしこれが彼の申告通りに騎士見習いだったならーー。


 剣だこができるほど訓練をしているのに、爪に汚れもなく綺麗に切り揃え、手のひらが水仕事で荒れずに柔らかいのはおかしい。

 担当する騎士や馬の世話を始め、あらゆる雑用をこなすのが騎士見習いだ。





 とするとーー、彼は衣服の通りの立場ではないはず。





 下働きや水仕事をする必要のない身分。

 一定以上の地位の子どもであることは間違いなかった。

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