第12話 安堵と希望(2)
「だが……己を大切にしなさい。父も心配でならないのだ。お前の身体は繊細で、人並みではないのだから」
お父さまの言う通りだった。
なんでもないことで熱を出すのは日時茶飯事で、生死をさまよったことも二度あった。大人しく寝て読書しているか、屋敷の中を散歩するのがわたしの生活の大半だった。
母が亡くなってから、特にお父さまはわたしのことを心配した。未来でわたしがなんとか16の成人を迎えることも知らないこの時は、余計に。
他に兄弟もない、公爵家の一人娘。
しかも、いつ命が危ないか分からない、体の弱い子。
本来なら父は他の跡取りをもうけるために再婚すべきだったのに、「愛するのは母ひとりだ」とつっぱねたために、家族はわたし一人きりだった。
それは、公爵という立場に誠実な父が突き通し、唯一わたしが知る強情だった。
母を愛する父を誇らしく思ったし、同時に、父がわたしを深く愛してくれていることも知っていた。
同時に、自分より先に娘が死んでしまうのではないかと酷く恐れていることもーー。
――とはいえ、いつか訪れる死は、幼いわたしにとって恐れるものではなく自然な存在だった。
秋の次には冬が来るように。
読み始めた本のページをめくっていけば終わりがやってくるように。
いつか必ずやってくる。
ただ、寝込んでばかりの生活は、全てから置いてけぼりにされる心細さが常につきまとっていた。
同い年の子どもたちは野を駆けまわり、歌い、学び……友を得て無邪気ないたずらをし、ほのかな恋を抱いて愛を知り、身分に見合った務めを果たすため未来に向けて着実に進んでいく。
その間、わたしはずっとベットの上に横たわっている。
悪意ある噂もあった。
『本当にまだ生きているのかしら? 実はもう亡くなっているのでは?』
『こんなに表に姿を現さないとはなーーさすが【幽霊公女】。生きていてもそこまで病弱では後継者も産めまい』
『ならばエドワード王子と【幽霊公女】の婚約はあってないようなもの』
『空席になる予定のその婚約者の後釜を、もうすでに何人も狙っていますわよ』
気にしないでいられたのは、父と、公爵家に勤める者たちのおかげだ。
不思議とこんな生活でも目に入ってしまう情報に、わたしの代わりに怒ってくれた。
わたしが「なんてことないわ」と笑い飛ばせるくらいに。
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