第5話 11歳の夏(3)


 二つ目に考えられるのは、わたしが殺される恐ろしい光景が、ただの白昼夢であること。これこそ一番ありえる話だった。



 けれどそう決めつけるには、心に焼きついた絶望と死の実感があまりに強い。あれは夢だと片付けられない……。


 いったんこの可能性を念頭におきながら、考えを進めていく。




 みっつめは、予知なのではないかーーという疑い。けれど神殿でもない場所で、こんな鮮明で、個人的な予知を得た例なんて、聞いたことがない。


 そもそも予知は神殿の巫女が賜るものだ。

 それも謎かけのような言葉の断片ばかり。


 なにより、告げられた予知は避けられないという。


 あんな未来を与えるほど、女神は冷酷ではないと信じたいし、もし予知だとしたら女神に逆らってでも最後までわたしは抗う。




 そして、最後にーー本当にわたしの精神だけが時を遡った可能性。


 魔法が満ちていた古代ならありえたかもしれない。

 けれど、今ではありえない話。……普通なら。


 気になるのは、あの殺された夜、わたしは腕に王家の宝玉を抱えていたこと。



 古からの魔法を秘めているという伝説の宝玉。



 でも……ううん、そんな突然、都合よく時が巻き戻ったりするかしら。



 それにーー以前何度か宝玉に触れた時には、こんな異変は起こらなかったもの。



 わたしは首を振った。


 とはいえ、全てをわたしの妄想として片付けることもできなかった。



 わたしの中にあるのは、悪夢のような「死の間際」の記憶だけじゃない。

 この11歳の体にはあるはずのない、16年間の記憶をたしかに覚えているのだから。

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