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 白瀬薺は森野芹くんの家に向かって、町の中を一人で走り続けた。

 その途中で、いろんなことを白瀬薺は考えた。

 もしかしたら、あったかもしれない自分(私)。

 もしかしたら、あったかもしれないあなた(森野くん)。

 もしかしたら、あったかもしれない私たちの関係。

 そんなものを白瀬薺は走りながら空想した。

 ねえ、森野くん。

 森野くんはどう思う?

 私たちはさ、もっと早くに出会えていたのかな?

 私たちは、もっと早くに幸せになれていたのかな?

 私たちはさ、もっと前から、今よりもずっと、……近い場所にいられたのかな?

 ……寄り添うように、いつも、ずっと一緒に入られたのかな?

 ねえ、どう思う、森野くん。

 薺は走る。

 自分の世界で一番、愛している人の元に向かって。

 でも、そんな薺の思いとは違って、世界のどこにも森野くんの姿は見つからなかった。

 森野くんの家は大きなアパートの一室にあった。

 その少し離れた場所にある、小さな公園のところから、……薺は、教えてもらった森野くんの電話番号に「はぁー」と深呼吸を一度してから、一度、電話をかけてみた。

 ぷるるるー。ぷるるるー。と電子音がした。

 ……でも、いくら待っても、森野くんは電話に出てはくれなかった。

 うん。まあ、いいや。本人に、森野くんにこれから直接会えばいい。私も自分の言葉で、森野くんの顔を見て、自分の思いを伝えたい。そう薺は前向きに思った。

 薺はそのままアパートの敷地内に足を踏み入れて、階段を上がって、四階まで移動をして、『森野』の名札のある一室のドアをとんとん、とノックした。

 薺の心臓はすごくどきどきしていた。

 でも、薺の期待と緊張とは裏腹に、そのドアは決して開くことはなかった。それだけではなくて、なんの返事も部屋の中からは帰ってはこなかった。

 ……留守、なのかな?

 薺はしょんぼりして、森野くんの家の前で、少しの間、時間を潰していた。その部屋に誰かが帰ってくる様子はない。数人の知らない大人の人が、薺のことを遠くからちらちらと移動しながら見たりしていた。

 薺は諦めて、もう一度近くの小さな公園に戻った。

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