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白瀬薺が森野芹くんの手紙を開くと、そこには一枚の紙が入っていた。
(本当はもっとずっと前に開けようと思っていた手紙だった。でも、どうしても、今の今まで開けることができないままでいた手紙だった)
それは、一枚の紙に書かれた薺に向けた短い手紙だった。
その手紙には、森野くんの薺への思いが手書きの文字で綴られていて、その最後の文には、『白瀬薺さん。君のことが好きです』とはっきりと書かれていた。
その森野くんの文字を見て、白瀬薺はぽろぽろと涙を流した。
その薺の涙は、一粒、二粒と、森野くんの手紙の上に、落っこちて、ぱん、と音を出して弾けた。
……薺の目から、たくさんの涙が溢れる。その涙を見て、あれ? どうして私、泣いているんだろう? どうしてこんなに胸が痛いんだろう? どうしてこんなに、悲しいんだろう?
そんなことを薺は思った。
ううん。その答えは決まっている。
それは私(白瀬薺)が、森野芹くんのことを、『世界で一番愛している』からに決まっている。
それからすぐに薺は行動を開始した。
服を着替えて、外出の準備をした薺は、森野くんの手紙を紺色のコートのポケットの中にしまいこんでから、どたばたと慌てた様子で、自宅の玄関を出て行った。
「薺! 静かにしなさい!」
「ごめんなさい。お母さん」
そんなやり取りを母親として家を出ると、冷たい風がびゅーと町の中を吹き抜けていった。
その風の冷たさを感じて、今は冬なんだ、ということを改めて白瀬薺は思い出した。
白瀬薺はその冷たい北風の吹く中を、森野くんの姿を探して、町の中をたった一人で走り始めた。
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