第2話 口の悪い救世主

「集団強姦は四年以上の有期懲役ですよ、お兄さんたち」

 突然かけられた言葉にバカたちの動きが止まる。

 手放しかけた意識を何とかつないで、声のした方へと焦点の合わないままの視線を向ける。

「通報は終えてますので、近くの交番からか警邏中のがおっつけ来る思います」

 冷ややかな口調だけど幼さのある声の主は、手にしたスマホをこれ見よがしに掲げて、

「犯行の一部始終、記録しときましたから言い逃れもできないですよ」

 面も割れてるから逃げたところですぐに捕まるぞと暗に告げ、

「婦女暴行は未遂としても凶器準備に傷害はハッキリしてますし、少年法で守ってもらえるから重くはならないでしょうけど、少年院行きは確実かな? よかったですね拍が付いて皆に自慢できますよ、おめでとう」

 不良ツッパリ特有の見栄を重視した思考を逆なでするような言葉を吐いているのは、大きな黒縁眼鏡をかけた半ズボン履いた小柄な少年。

 着てる制服に見覚えがある、この辺りで一番大きな小学校のもの。けど言葉使いや態度が小学生っぽくなくてひどくアンバランス。

「――お姉さん、動ける? 動けるならこっちへ」

 強姦未遂魔たちを眼鏡越しの冷めたまなざしで見据えたまま、アタシに声をかけてくる小学生。

 言葉に従い立とうとするけどダメだ、脚に力が入んない。何とか動かせる片腕を使って這って移動しようとしたとき、

「――おいガキ、スマホこっちによこしな」

「舐めてんのか、ああ?」

「痛い目合いたくなきゃ……」

 三バカが我に返った。

 下着脱がそうとしてた奴がそのまま腰を抱えて組み伏せてきて、また身動きが取れなくなるアタシ。

 残るふたりが小学生相手にすごむ。

「動画は然るべきところへ送った後ですから、取り上げても無駄ですよ」

 けど小学生はひるまない。それどころか、

「僕に手を出したところで罪が増えるだけで何の得もないですが……あぁ、あなたたちの大好きなカッコつけってやつですね」

 薄く笑って、

「父がよく言ってます。連中は幼稚なくせにプライドがやたらと高い、仲間に対してカッコつけるためならどんな愚かな真似でもすると」

 不良の矜持と言うか、連中が心の寄り処にしているを逆なでする言葉を吐き続け、

「――本当、その通りですね」

 呆れたようにそう言い切ったところで、遂に三バカがキレた。

「×××――――ッ!」

 言葉にならない怒号を上げて小学生に襲い掛かっていく。さすがにやばいっ、逃げてと叫ぼうとしたとき、

「傷害の現行犯、確保―っ!」

 聞きなれた警笛の響きとともに数人の警官が飛び込んできて、あっさりと三バカを取り押えてしまった。

 一件落着?

 呆気にとられていたアタシは、怪我しているからと婦警さんに連れられて病院へ直行。

 警察を呼んでくれたあの小学生にお礼を言いたかったけど、バタバタしてて言いそびれてしまった。



                  次回へ続く。

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