不良少女白書
シンカー・ワン
第1話 不良少女A
いつから道を外れ出したのかは覚えていない。
中坊のころにはどこに出しても恥ずかしい立派な不良になってた。
きっかけは大したことじゃない。
片親なのを周りからごちゃごちゃ言われるのに腹が立って、力づくで相手の口を塞いだのが始まり。
気がつきゃ暴力で済むことは暴力で片付けるようになってた。手っ取り早いからね。
群れるのは性に合わなくてひとりで居たら、そういう態度が気に入らないって敵視されるようになって。
売られたケンカは買う、相手は同じ不良だけ。盗みやカツアゲはやらない。それが不良なアタシなりのルール。
親を悪く言われるのが嫌でやりだしたことで親を泣かす真似してるんだから、どうしようもない親不孝者だ。
勉強は苦手だから高校には進まず、すぐに働いてお金を稼いで親に少しでも楽をしてもらうつもりだったのに「せめて高校には行ってくれ」と母に泣かれちゃ従うしかない。
中学最後の担任が面倒見が良い人で、こんなアタシでも入れるとこを探してくれた。入学が決まったら親もセンセ―も泣いて喜んでくれた。
恩に報いようってちゃんと学校通ってバイトなんかも始めて、まじめになろうとしたんだけど……やっぱり駄目で。
中学のころ凹ましてた連中が嫌がらせしてくれちゃって、メーワクかかるからバイトも辞めて、仲良くなりかけてた同級生たちとも距離をとるように。学校からも離れていった。
また不良に逆戻り。でも自業自得。
久々に学校に顔出した帰り、アタシを敵視してる連中とひと悶着。避けるつもりが下手こいて追い詰められてしまった。
西日の差す路地裏一方通行どん詰まり、壁を背にしたアタシの前にはいかにもな不良男子が三人。
いつもなら大したことの相手、けどここへ追い込まれるまでに棒切れで殴られたりなんやらで万全とは言えない。後ろからしこたま叩かれたからか、背中が痛い右肩が上手く動かせない。制服、また汚しちゃった破れてなきゃいいんだけど。
全力で走りまくったせいで
「ハーッハーッ。てっ……めぇもっ、年貢のっ、納めっ、時だなっ、ハーッ」
バカのひとりが息切らせながらなんか言ってるけど、耳鳴りがして聞こえ辛い。つか年貢って今どき使うかぁ?
あ~ダメだ、言い返したいけど息が荒くて言葉になんない。足にも力入んない……やば立ってらんない。
「ははっ、立って、らんねぇ、たぁ、ザマぁねぇ、なぁ」
座り込んじゃったアタシを見下ろしてバカ二号。お前だってゼーゼー言ってんじゃないかってーの。
見下した言い方のわりに離れている辺りに肝っ玉の小ささがうかがえる。
「オラっ、なんか、言ってみろよっ、オラオラっ、ゲホッ、ホッコォッ」
荒い呼吸のままバカ三号が二号と同じように距離取ったまま手にした棒切れでアタシの脚を小突く。あーイラつく。
気持ちのまま棒切れを蹴飛ばしてやろうとしたけど、思いほどに脚は動かずスカートがちょっとめくれただけ、あ、こら、なにしやがる?
棒切れでスカートめくられて太腿丸見えになる。すぐに抑えたから下着は見えてないはず。
ン? 三バカがなんかこそこそと言いあって下卑た笑い方してる、ジャンケン……順番?
「勝ったぁ、俺一番!」
「かぁ~っ」
「チッ」
……嫌な予感しかしない。逃げなきゃ立たなきゃと気持ちは逸るのに身体がついて来てくれない。
「……実はよ、なかなかイイ身体してんな~って前から思ってたんだよ」
「俺もだ」
「へっへっへっ、俺も」
バカどもの手が伸びてくる。ふざけんなっ、お前らなんかの好きにさせるための身体じゃねぇ。
火事場のなんとやらか力が戻る。バカのひとりを蹴飛ばした勢いで身体を起こして体当たり、このまま振り切って逃げて――。
「逃がすかよぉっ」
バカのどれかが腰に組みつきやがった。自分だけならともかくそいつの体重まで支える力は今のアタシにはなく前のめりに倒れ込む。
痛い。地面にぶつけた顔がジンジンする。
腕を伸ばし這ってでも進もうとしたけど、片腕しか動かないしその力もなくなってく――。
「手間取らせんじゃねぇよ」
どことなく桃色だった声音がどす黒くなってアタシに圧し掛かり、力の入らない下半身が強引に引き起こされて膝立にさせられた。
あ、ダメだ。……やだな、ごめん母さん、ごめん。
絶望の中、スカートがまくられ下着に手がかけられたのを感じたとき、声が聞こえた――。
次回へ続く。
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