第一章 幼き瞳に

第一話 千年後の過去

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 開きっぱなしの窓から、ひんやりとした風が入ってくる。

 昨日の晩は少し蒸し暑かったこともあり、窓を開けたまま寝ていたのだ。

 夜中のうちにかなり気温が下がったらしい。肌寒さを感じ目が覚めると、窓から見える東の空から覗く太陽が1/4ほど頭を出していた。


 ダイム・リンデンは急いでベッドから飛び起き寝間着を脱ぐと、首輪型の『トランスミッション・ウェア』を装着した。


 この国『ジャピニオン』は、元々魔導師達の国であった。

 そして現在の民達は、それこそ血は薄くなってはいるものの、他の国々の民に比べの高さは段違いであった。


 かの大戦後、音を無くした国々は独自のを開発し、この『トランスミッション・ウェア』もその一つであった。


 ダイムは着替え終えると、すぐに階段を駆け下り、廊下の突き当たりの部屋に入る。

 そこは、ダイニングルームとなっており、先に起きていたトトが既に朝食を摂り始めていた。


 トト・ロムルス---。彼の親友でもあり、でもある。

 トトは、このジャピニオンをかつて統治していた神官でもあり、かの大戦を終結させた『ソニック・ジャマー・メカニズム(SJM)』を開発したという、ジダン・ロムルスの末裔である。そんな同い年のトトがリンデン家の居候となり、もうすぐ1年が経とうとしていた。


(やぁ、ダイム。おはよう。)

 青い瞳をダイムへと向けると同時に、彼のが脳へと直接伝わってくる。


(トト。おはよう。相変わらず早いね。)


 トランスミッション・ウェアのおかげで、着用者の魔力を介し、相手の脳へ直接意思を送り込むことが出来る。また、それは魔導師の子孫だからこそ使える魔導具であり、必需品でもあるのだ。


 ダイムがトトの隣に座ると、母親のメイが彼の前に食事を出してくれる。


(ほら、ダイム。早く食べなさい。今日からあなた達は学校に行くんだから。)


(分かってるよ。いただきます。)


 並べられた朝食を食べ終えると、トトとダイムはメイに(ごちそうさま)とだけ伝え、急いで家を出て行った。


 二人乗りの三輪バギーに乗り込むと、トトがする。


(ねぇ。ダイム。)

(うん?)

(学校って--何をしに行くのかな?)

(さぁ?何せ、去年からだろ?学校ってのが始まったのは。この辺り、僕達くらいしか子供が居ないしなぁ。)

(そうだよね。あぁ、--そういえば僕、この町で君以外の子供と会うの初めてだ。)

(あ、そうだったのか。それなら、友達たくさん出来たらいいな!)

(だね!楽しみだね!)


 ダイムが運転するバギーは、かつての繁栄を象徴するが砂の中に体を半分沈めている荒野を走り抜ける。


(あ、トト!ゴーグルとマスクを!砂嵐が来るぞ!)

 遠く前方の空を覆うもやを見つけ、急いでゴーグルとマスクを着用する。


 100年ほど前に地殻変動が起こり、砂漠と化した旧市街のこの地域は度々砂嵐に飲まれていた。

 かつては栄えていた街も荒廃し、人々は都会を目指し去って行った。

 今も尚この場所で暮らすのは、リンデン一家とごく僅かな家族だけになっていた。


(うわー、口に砂が入ったよ。)

(今のは強かったね。)

(あぁ、トトすまない。そろそろ魔力が尽きそうだ。運転変わってくれ。)


 このバギーも、魔導具の一種である。運転者の魔力を吸い、動力に変える。だが、魔導師の末裔とは言え、魔力は無尽蔵ではない。

 体力が尽きるのと同様、魔力も使い続けると尽きてしまう。食事や、睡眠、休憩を取ることで回復はするが、尽きた魔力を回復するにはそれなりに時間を要するのだ。


 そして、トトと運転を代わり30分程走ると、高い塀に囲まれた新市街『シリオス』に到着した。新市街は国の南端に位置し、国境に近い。そのため、近隣国々との交易中継地でもあった。

 ダイム達の住む旧市街地とは違い、そこは人が多く住み活気に溢れている。高い塀に守られ、砂嵐の被害を留めているらしい。

 町に入るには、東西南北にそれぞれ一箇所ずつ設置されたゲートを通る必要がある。二人は最南端のゲートから町に入ると、付近の駐車場にバギーを停車させた。


(ほんと、人に溢れてる。)

 トトはゴーグルを外しながら目を丸くしている。

(だね。あ、学校に行く前に、マーケットによって昼ご飯を買って行こう。)


 ダイムの案内で、町の中を散策する。

 トトは初めて目にするものばかりだった。

 人の多さもそうだが、様々なものが売買されている数々のマーケット

 人々の多くが生活を営んでいる集合住宅アパートメント


(ダイム---。ダイムは町には来たことあるの?)

(あぁ、父さんに連れられて小さな頃に何度かね。)


 ダイムの父は、ここより程遠くにあるジャピニオンの首都『イムニア』へとに出ており、もうすぐ2年が経とうとしている。

 1年ほど前、一度だけ戻って来たことがあった。その際にトトを連れて帰って来ており、多くのことはダイムには分からなかったが、トトは家族としてリンデン家に迎え入れられていた。


(着いた。ここだ---。)


 小さなマーケットには、日用品から食材まで取り揃えてある。

 ダイムは店主らしき中年の男性に保温ジャーを手渡しながら送念する。


(おじさん。ピクルスとチキンのサンドを一つ。それとビーンズスープを--スープはこれに入れて。--トトはどうするんだい?)


(僕は---この、レーズンパンとビーツスープにするよ。)

 トトは綺麗な赤紫色のビーツスープが大好きだった。ダイムは酸っぱいからと苦手らしく、ビーツスープを選んだトトをと言わんばかりの目でみつめていた。


(あいよ。2人とも、今日が初登校だろ?それじゃあサービスしておくよ。おまけで一人250Gずつな。)


(ありがとう!)


 トトとダイムは笑顔になり、おじさんにお礼を言うとマーケットを後にした。


 学校に近付くにつれ、年が同じくらいの子供たちが増えていった。


魔導師Sorcerer小学校primary school


 校門にはそう書かれている。

 一昨年発足した、旧十五国連合の統一政府が設立した基礎学習学舎である。

 国民は全て、7歳になる年から学校に通う事が義務付けられたのである。


 ダイムもトトも家から1時間程かけて通う事になっていた。


 校門の前に立ち止まり、二人は空を見上げていた。

 そこには桜の花びらが宙に舞い、真っ白な雲をぽつんぽつんと浮かべた青い空が二人を見下ろしていた。


 これから始まる二人きりのにダイムたちは胸を踊らせていた---。


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