2-104.J.B.(65)Murder Rap.(殺人ラップ)
「まあ、まずは“特別感”と“高級感”だろうな」
幾重にも模様の編み込まれた豪華なカバーの掛けられ布地のソファーへとどっかりと座りそう言うのはイベンダーのオッサン。
「“特別感”に……“高級感”ねェ~~……」
「上客の殆どは王国から来てるわけだろ? つまりわざわざ転送門潜ってまでやってきたか、駐屯軍関係者。
軍関係者はまたちっとは違うだろうが、そういう客相手に“王国領内の安宿で買える程度のもの”だと思わせない、わざわざクトリアくんだりまで来た甲斐があった、と、そう思わせる“特別感”だ」
ふーむ、と腕組みしながらしかめっ面のクランドロール新団長の“女衒”のクーロは、しかし意外にも熱心にその言葉を聞いている。
何故こんな話になってるのか?
つまり、何故娼館であるクランドロールの応接室で、新団長のクーロ相手にイベンダーのオッサンが経営指南なんぞをかましているところを、俺とあのけったいなオークのガンボンが横で見ているのか?
そこにはまたややこしく……いや、多分ややこしいというほどでもないな。ただちょっとした経緯がある。
その一報を受けたのは昨日の午後。ノルドバ付近の壊れた遺跡から、ボーマ城塞へと飛んで行きその奥の遺跡へとドゥカムを案内したその翌日。
ボーマ城塞へ行った当日は、ドゥカムはとにかく調査を止めようとしないし、夜遅くもなるし飛び回って疲れたし、何よりアデリアの家族である母のロジータ、叔父のジョヴァンニ、そして弟のアルヴァーロ達にきちんと俺から話をしておく必要があったため、そのまま一晩は厄介になることになった。
正直俺としては、「大事な一人娘になんてことを!」と責められても仕方ねえとも思っていたが、意外にも……と言うのも悪いが、あのロジータでさえ俺を責めることはなかった。
ホルストが細かい状況……それこそ、そもそもアデリアが勝手についてきたと言うところからすべてを事前に説明していたことや、やはりそれら含めたアデリアの性格気質を彼らも十分に理解していることもある。
そして何より、彼女が探索者になると言い出し喧々囂々の言い争いの末に出て行ったときから、そういう事も覚悟はしていたのだと言う。
「それに、実際に死んだと決まったワケやないんやろ?」
丸い顔をしわくちゃに歪めつつも、ジョヴァンニがそう言うと、
「アデリアのことやし、案外元気にやってるかもしれんもんね」
と付け足すアルヴァーロ。
実際、ガンボンの奴に言わせれば「レイフが居れば、そんなに心配はない」らしいが、まあどうだかな。
ここで見つけた地底湖の“新しい区画”なんかを作ってたのもそのレイフとかいうダークエルフ野郎で、そこでは精霊獣のケルピーまで使い魔にしたというから、実力に関しちゃかなりのもんなんだろうけども……まあ俺からはなんとも言えない。
「しゃーけどな、若いの……」
ぬう、っと鬼の形相で下からねめあげるように顔を寄せてくるロジータ。
「あの、顎しゃくれのガキだきゃあ、一発かましたらないかんわ。
あのボケほんまいけしゃーしゃーと『俺が守ったる』とか調子のええことばっかこきくさってからに……」
「……せやな。さすがのワシかて、あのクソボケガキのことは弁護でけへんわ」
「……まあ僕もそら、一言二言は言わせてもらうわ……」
ヤバいな、アダン。
アデリア見つかる前にボーマ城塞に来たら地獄を見るぞ……。
そんな居心地の悪い晩餐を経て一眠り。翌日もしつこいドゥカムをなんとか説得し昼過ぎには出発。
そしていったん一人で情報を整理すると言うドゥカムと“黎明の使徒”の本部で別れてアジトへ戻ると、まずはグイド達とかち合った。
「おお、JBの旦那! 見てくれよこいつをよ!」
自慢気に棒につるして数人がかりで運んでた何かの大きな肉の塊を見せるデレル。
「あ? 何だこりゃ? 鰐男……とは体型がちょっと違うな?」
鰐男は腕と足がにょろりと長く、シルエットは普通の鰐や爬虫類より人間に近い。
「こりゃ、金色オオヤモリだぜ、旦那」
横合いから、丁寧に剥がしたであろう金と黒のまだら模様の鱗つきの皮を広げて見せるのは、地下街住人の中では古株の方のフリオ。上に買い出しや取り引きに行くときなんかはよく荷運びを手伝って貰ってる、恐らく三十路か四十路近くの中年男だ。
「金色オオヤモリ? まてまて、お前ら山の方まで行ったのか?」
オオヤモリ自体は比較的広範囲に分布してる。アダンによると黒オオヤモリはグッドコーヴ近辺の海岸沿いの岩場にもよく居るらしいし、平地でもちょいちょい見かける。
その黒オオヤモリは、成長する過程で受けた魔力の影響によって、何タイプかに変異するという変わった特性を持つのだそうだ。
で、その中でも厄介なこの金色オオヤモリは、比較的高地の山の方へと移り住む。なので平地、街の近くで遭遇することは滅多にない。あるとしたら例の岩蟹大量発生の時のように、人知れず自然発生した濁った
「いやー、それがよォ……」
と、ことの経緯を語るのは、“炎の料理人”フランマ・クークの襲撃により連れ去られ、意図せず脱走囚人となり
何でもイベンダーのオッサンの発案で、ガンボンらと共に郊外への採集活動中に偶然出くわしたのだ、と。
フリオによれば、この金色オオヤモリは大角羊の大集団を追いかけていたと言うことで、山の方から狩りをしててそのままたまたま降りて来てしまったんじゃないか、との事だが……。
無い、とは言い切れんが、あるのかねえ、そんなこと。ま、めったにあることじゃあねえだろうがな。
んで、そのイベンダーとガンボンはどうしてるのかと言うと、ちょいとアティックのところに寄っている、と。同時に穫れた穴掘りネズミの調理法を聞くのだとかで、まあ確かにアティックのやり方なら結構美味いからな。そりゃ大切……とまあそんなことを話していたときに、だ。
ちょうど戻って来たその二人から、カストの野郎の訃報が入った。
■ □ ■
「特別で高級。まずその為の演出を強く押しだしていくには、大胆な改築改装も必要だな。
正直今までの内装は悪趣味過ぎる。逆の意味で特別ではあるが、あれじゃ客を選ぶだろ」
「確かにあの辺はサルグランデの趣向で、俺ぃらの趣味とも違うがよ……変えるにしてもどー変えりゃ良いんだかなあ。
俺ぃら、お姉ちゃんのことは色々分かるが、そういうのはさっぱりだ」
熱の入った経営指南は益々入り組んで行く。
「そうさなあ……。コンセプトは今までと真逆……背徳と暴力じゃなく、癒やしとリラクゼーション……てとこかな」
「おいおい、このクトリアで癒やしってかぁ?」
「だからこそ、よ。それにクーロ。アンタの新体制になったことを大きく打ち出すのには、今までのサルグランデ色を一掃した方が良い。
荒れ果て殺伐としたクトリアの荒野に、平和で癒やしのオアシスが現れる……。それを提供してくれるのは誰だ? そう、それこそがクランドロールの新団長、クーロだ! ……ってな」
大げさな身振り手振り。今はいつもの全身ドワーフ合金鎧姿ではなく、ブーツと篭手のみ。身体は簡素な革と布の銅当てだが、それでも動く度にガチャガチャと音がうるさい。
「悪くないじゃない。だいたいサルグランデは趣味が悪すぎたのよ。オアシスって言うなら、中庭の噴水も再稼働させるのはどう?」
クーロにしなだれかかる様にして付き添ってた女がそう口を挟む。多分ここの娼婦の一人だろう。鼻筋の通ったきつめの顔立ちの美人だが、王国で好まれるふっくらした美女というよりは、痩せ身でシャープ。野性味のある雰囲気だ。
「ほう、噴水なんてあったのか?」
「前はね。使ってたけど、故障しちゃったのよ。それをサルグランデは面倒だからってケチって直さなかったの」
「ふむ。何なら俺が修理も請け負って良いが、そうだな……改装含めてクルス家の連中にやらせてみるのも良いかもしれんぞ。
あいつ等はこれから伸びる。それにモロシタテムとも繋がりを持つのも悪くない。
サルグランデは武力で威圧する一辺倒で他勢力との協力関係を軽視してたみたいだが、新体制ではそこも改めた方が良い」
「だが、俺ぃら達ぁ今までずっと強面で売ってた。それがいきなりそれだと、舐められるんじゃねェのか?」
「ま、ちっとはそういう連中も出て来るだろうが、むしろその方が好都合だろ?
“クーロ新体制になったからって舐めた真似をすればどうなるか?” を、周りの連中に見せつけるには」
ニヤリと不敵に笑うイベンダーに、クーロは一瞬だけ目をむいて大笑。
「かかか! 何でぇ、お前さんもてぇしたたまだなぁ、おい!」
むさいオッサンが面付き合わせて悪巧みだ。
「あー……、ちょっとそろそろ良いか?」
その隙間をついてなんとかねじ込み、
「まあその、経営云々の話は一旦余所に置いといて、よ。
例のカストのことなんだが……」
元『牛追い酒場』の用心棒兼取り立て屋で、取り立て金を持ったまま逃げ出しサルグランデの下っ端として汚れ仕事をやり、その後はクーロの親衛隊の一人になっていた胸毛大男のカスト。
奴がサルグランデの命令で孤児達の一人のメズーラを誘拐し、俺がそれを取り戻す過程で反逆の陰謀が明かされた結果、当時はまだ実務の取りまとめ役だったクーロが団長にのし上がるきっかけになる。その流れでカストの奴もおこぼれに預かった。
浅からぬ縁ではあるが、かと言って親密って訳でもない。奴が死んだと聞いても悲しく思う気持ちは特にはないが……かと言ってどーでも良いと思える程でもない。
「ああ、まあ……そうだな。
取り敢えずコリーナ、ちっとばかし席を外しててくんねえかな」
そう言ってキツ目の顔立ちの女を退室させようと促すクーロ。
「何よクーちゃん、聞かれちゃ困る話?」
「別に困る事ぁねえが、聞いて楽しい話じゃあねえからよ。
あと人前でクーちゃんは止めてくれ」
「はいはい。じゃ、後でまた、たァ~~~……ぷり、ね?」
「へへ、おうよ、たァ~~~ぷり、な」
だらしないにやけ面で手を振るクーロ。
……そういや確かこいつ、女に踏みつけられるのが趣味なんだっけか。思い出したくねえ情報思い出しちまった。
「ま、結論から言うとヤクの食いすぎだ」
コリーナが部屋を出たのを見計らって、改まってクーロの言うカストの死因は実に単純なものだった。
「ヤク? まさかウチの魔法薬じゃあないよな」
「そいつぁねェな。ありゃ南地区辺りで密造されてる安物の粗悪品だろうよ」
錬金薬、魔法薬にも出来不出来により効果のみならず副作用も方も変化する。材料の組み合わせや配分が悪ければ、薬効よりも副作用の方が強くなったりもするし、害のある副作用は摂りすぎるとどんどん強くなる。魔力を込めない普通の調剤薬ともそこは同じ。
「それにあの野郎がやってたのはサボテン煙草にも劣る出来の興奮剤入りの濁酒だ。
夜中に一人でそいつをかっくらって、いい気分のまま死んじまったみてぇでよ」
「……マジか」
サボテン煙草はいわゆるダウナー系。気持ちも身体も弛緩してリラックスするタイプのヤツで、薬の素材としては鎮痛、消炎効果なんかもある。
興奮剤系の薬効のある原料は色々あるが、魔法薬として調合すれば疲れをぶっ飛ばす覚醒作用や、五感を高めて素早く敵に反応し有利に戦える作用のある薬なんかにもなる。
シャーイダール……のふりをしたナップルの作る魔法薬の中にもそういう効果がある薬もあるが、一応キープはしつつも使い勝手が良いかというと微妙なところ。五感の鋭くなるやつや周囲の速度が遅く感じられるやつは使用後の精神的な疲労が激しく、そのアップダウンの差が、依存、中毒性にも繋がる。
それに元々その手の薬効のある薬、原料の多くは精神的、肉体的依存性が高い。例えば感覚が鋭くなるということは快楽にも敏感になるから、まさに酒に混ぜて女とハメてりゃ快楽のカクテルで頭もイッちまう。
そういう多幸感や万能感が癖になり逃れられなくなると、それこそ文字通り「魔法薬」ならぬ「麻薬」として依存しちまうことになるわけだ。
戦争に行く兵士が覚醒剤を使い、帰還後ヤク中になっちまう……みたいな話にも通じてる。
ヤクにハマって抜け出せなくなり人生を破滅させた連中は、前世でも何人も見てきた。それこそハイスクールの同級生にも居たし、ガキの頃に遊んでたダチが学校を止めてドラッグの
カストのことは実際本当によく知らない。ヤク中だったのかアル中だったのかも分からねえ。
なのでヤクの食いすぎが死因と言われても、それが意外なのかそうでないのかも……判断しようもない。
「俺はそいつと会った事ぁねえが、元々そーゆーことやってそうな奴だったのか?」
「……ん~~、まあそこなんだがな。俺ぃらも正直よく分かンねェンだよな、はっきし言ってよ。
元々あの野郎はネロスの下についてた下っ端で、
他の
奇妙な縁だ。俺と関わらなきゃ出世もしてなかったが、もしかしたらこんな死に方はしてなかったかもしれない。
いや、俺と関わらなくても勝手に野垂れ死んでたかもしれねえし、サルグランデの反逆がバレて“ジャックの息子”か他のファミリー、叉はクーロ達の派閥に粛正で殺されてたかもしンねえ。
或いは奴がサルグランデの指示で “壊しても良い女” としてメズーラを攫ってなければ……いや、その前に旧商業地区で「邪術士シャーイダール謀殺の陰謀」を耳にしてなけりゃ……と、まあこんな事ぁ言っててもしょうがねえか。
「ふーんむ……。その遺体ってのは、今どこにあるんだ?」
「取り敢えずは地下室に入れてあるよ。ここで死人が出たら取り敢えずそこにつっこんどいて、定期的にまとめて運び出して埋めにいく。
元が神殿だから、実はそういうのにも困らねぇんだよな」
そう皮肉げに笑うクーロ。
オッサンはそれを受けてすっくと立ち上がると、
「よし、JB。お前さんは一応顔なじみなんだろ?
最後にその間抜け面だけ拝ませて貰いに行っておくか」
と言う。
「そいつは殊勝だな。ドワーフ流か?」
「んにゃ、異世界流……てとこかな?」
「何でぇそりゃ?」
ああ、本当に「何だよそりゃ」だ。
改まって別れを告げるような相手でもないが、ことさら嫌がる理由もない。俺もクーロに礼と挨拶を述べて後へと続く。
「おおっと、そうだ、待ちなよ、
と、去り際の俺を呼び止めて、すっと差し出す小袋にはずっしりとした重み。
「お、おい、こりゃ……」
中には金貨。しかもクトリアの“小粒金貨”じゃなく、王国のティフツデイル大金貨。六角金貨とも言われるそれは、大きさもそうだが形も文字通りに六角形で意匠も細やか。純度も高く高品質なため、おおよそクトリア小粒金貨の10倍近くの価値で取り引きされる。その旧商業地区なんかでは使いようがない高額貨幣がぎっしりだ。
「奴の借金の残りだよ。
俺ぃらが保証人になるって約束しちまッたからよォ。肩代わりして払わねェワケにはいかねェだろ?」
「そりゃ……いや、すまねえ」
「良いってことよ。また遊びに来てくれよな」
そう軽く返されるが、親切というよりかは逆にちっとおっかねえ話だぜ。
どーにもマヌサアルバ会といいクランドロールといい、貴族街三大ファミリーとの縁が強くなってきちまってる。
■ □ ■
地下室はひんやりとしていて薄寒く、いつも地下街暮らしの俺ですらぶるりと震えるくらいだ。地下だから寒いのか、単に気のせいなのかは分からねえ。
クーロの言うとおりに元々神殿の死体安置所だったろうその薄暗い地下室の石造りの台の上に、カストのだらしねえ面をした死体が乱雑に寝かされている。
たいした縁じゃねえのは確かだし、取り立てて感傷的になる相手でもねえが、とは言えこう実際に死体を目の当たりにすると、何だか奇妙な感じがしてくる。
イベンダーのオッサンはすたすたと短い足で先を行き、ふんふんと言いながらカストの死体を眺め……いや、調べてる。
「おい、オッサン、何やってんだよ。
カストのバカ面拝んで帰るンじゃねえのかよ?」
俺の後ろで妙な面してるガンボンもいまいち状況に馴染めてないようだが、まあそらそうだな。
「ふふん。俺の前世のプロフィールは覚えてるか?」
ニヤリと笑いそう聞いてくるオッサンに、
「ありゃもう聞き飽きたぜ。科学者にして商人、探鉱者であり運び屋、そしてベガスの救世主……だかなんだかだろ?」
人に自己紹介する度に言うそれを、覚えたくもねえのに覚えちまった。
「おう。だがそれは実のところ短縮版だ。
実はな、俺はそれに加えて“医師であり生命の探求者”でもあったのよ」
「はァ? 肩書き乗せすぎだろ?」
もはや典型的な詐欺師じゃねえか。
「ま、ほぼ見よう見まねの倣い仕事だがな」
何だよ、モグリの闇医者か何かかよ。
「いいけどよ。で、何なんだよ?」
呆れた調子でそう聞き返すと、
「監察医の真似事だ。
俺はこいつのことは知らん。だから先入観も予断もない。こいつが話通りに間抜けな死に方するようなジャンキーだったのかそうじゃなかったのかも知らん。
だから……な」
そう言いながら台に乗り、首の後ろや背中を確認。
「おい、ガンボン。ひっくり返すぞ、手伝え」
そう言われてやはり嫌そうな顔をしつつ付き合うちびオーク。こいつは意外と付き合いがいいというか、人に何か言われると断れないタイプっぽい。
暫くの間、裏も表もなめ回すように調べ上げて一言。
「ふむ。真新しい外傷も特に無いし絞殺の痕もねえな。やはり死因はヤクの食いすぎで良いのかもしれん」
……って、おいおい。
「何だよ、それで良いのかよ。何か怪しいと思って調べに来たんじゃねえのかよ?」
オッサンはたしかに変人で、俺らにはよく分からん突飛な言動をすることは多いが、かと言って本当に意味のないことをしてばかりいるってワケじゃない。だいたいはオッサンなりの考えがある。
「まあな。ちとタイミングが気になったからな」
「タイミング?」
そう聞き返す俺に対してそこは答えず、
「……まあ、死因そのものは多分ヤクなんだろう。
けどな、そのヤクをこいつが知ってて飲んだか、知らずに飲んだか……叉は飲まされたのか……てとこが、な」
「ふへ?」
俺より先に間抜けな声で反応するのはガンボン。
「じゃ、誰かにヤクを仕込まれたってのか?」
「殺…人…事…件…? キンダイチ……?」
また変なことを言うガンボンだが、確かにミステリー小説みてえな話になってきやがる。
「ここの連中の多くは元傭兵団の荒くれ連中で、魔法を使える奴はほとんど居ない……そうだったな?」
「ああ、そう聞いてるぜ。まあ簡易魔法程度なら使える奴は居るかもしれねえが、基本的にはな」
「それが本当なら、少なくとも外部からの何者かが、魔術を使ってこの大男に何らかの接触はしてる。ここ数日の間に、だ」
「何で分かる?」
そう聞くと見せるのは例の“魔捜鏡”とかいう魔力や生命力を探知する小さな円盤。
「こいつは基本的にはレーダー探知器みたいなもんだ。周囲の魔力、生命力を自分を中心とした円の中で、方向、強さ、敵意の有無なんかを表示して視覚化する。
けど実は他にも機能があってな。魔力の痕跡も過去数日に遡って見つけられる」
痕跡……つまり、魔力による何か?
「で、まあごくわずかだが、こいつの周りには微小な魔力痕が見て取れる。
強い魔力痕じゃねえから、直接こいつを殺したり操ったり……てのとは違ってそうだが、まあ何かしらあるな」
「何かしら……ねェ」
あやふやな話ではあるが、確かに気になるっちゃあ気になる話。
「考えられるのはどんなのがある?」
「追跡、探査系統の魔法、軽い幻惑、何者かの使い魔……」
「カリーナの
「無くはないな。あれくらいの弱い使い魔なら数日このくらいの魔力痕が残る」
「カリーナには何度かこいつの追跡を頼んだ事があるが……まあかなり前だ」
「ならここ数日のとは関係ないし、死因や死んだタイミングに関わってるなら、カリーナが“聞いた話”としてこいつの訃報を知らせてくるのも妙な話だ」
カリーナの師でもあり同じ様に
マヌサアルバ会なら常時広範囲に追跡や探査の魔法を使ってる可能性はある。アルバによれば例の飛行機事故だかで同乗してた「この世界に生まれ変わってる可能性のある人間」を探すため、定期的にその手の魔法で調査をしてるらしいが……。
「広範囲、無作為の探査とは、魔力痕の残り方がちと違うな」
「こいつ……つまりカスト個人を特定して何かしら仕掛けられた?」
「うむ。
まあどこかで恨みをかって、誰ぞから呪いをかけられた……てなのも有り得るしな。
呪いってのにも幾つか種類があって、金色オオヤモリみたいな“近くに寄らば苦しませる”てなのも呪いの一つだが、“ある特定の確率で起こり得る不幸を起こしやすくする”ッてなのもある。
その類の呪いなら、“たまたま普段は飲まないような粗悪なヤク入りの酒を飲み、たまたま副作用がキマりすぎて心停止”……てなのも、無い話しじゃあ、ない……が……ふぅむ……」
確実に殺せるワケじゃないが、気長に待ってればいずれ“たまたま”呪いで死ぬ……。
なんというか気の長い話だぜ。
「まあ今の所それくらいしか分からん。
俺達と関係あるのか、全く無関係な事か……。
もうちっとばかし探ってみておいても良いかもしれんな」
そう名探偵気取りのドワーフのオッサンが言い、俺は眉根を寄せ、ガンボンはまたも間抜けな顔で大口を開けていた。
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