1-11. 「知っている。俺はこれを知っている…………ッ!!」


 

“それ”は、黒く艶やかな色をしていた。

“それ”は、楕円状で小さく、そしてある種の艶めかしさすらある、しっとりした湿り気を帯びていた。

“それ”は、白く泡だったような粘りのある粘液を纏わせていた。

 

「凄い……、こんなに糸を引いてるなんてっ……」

 思わずそう口にしてしまいそうになる。

 黒ずんだ、それでいて艶やかに光る小さな豆に、纏わりつく泡立った粘液が、長い糸を引いている。

 知っている。

 俺はこれを知っている…………ッ!!

 そう。

“納豆”だ……!!

 大豆を、発酵させて作られた食品……。

 その匂いと見た目から、嫌われることも少なからず。

 しかし一部の人達からはある種のソウルフードとして愛される食品。

“納豆”だ……!!

 大切なことなので二度言いました。

 

 俺は横に居たレイフへと目をやる。

 その視線を受けて、レイフがニヤリと笑う。絵に描いたようなドヤ顔だ。丸眼鏡がキラリと光る。

 朝食に出たこの“納豆”。勿論、ダークエルフの伝統料理……等では無い。

 この、「ザ・和食」なメニューは、レイフによる手造り。

 ドヤ顔御満悦なレイフ曰く、「再現するのにはなかなかの手間だった」らしい。まあそうだろう。

 材料集め、その選定、発酵の調整諸々と、試行錯誤の繰り返し。

 他にも様々な料理の再現に挑戦していると言う。

 その成果もあって、少なくとも見た目には正に、これぞ和食、とでも言わんばかりな朝の食卓なのだ……が。

「……いや、皆まで言うな」

 椀に盛られた雑穀ご飯。

 ヘルシー志向で食されるそれとは異なり、ベースとなるうるち米の無いそれは、もそもそ、というか、ぼそぼそ、という舌触りのもので、まー、「コレジャナイ」感がハンパない。

 これらの雑穀は元々は麦と一緒にお粥のように煮たり、粉にしてパンや焼き菓子の材料にして食べられているもの。

 無理に米のように炊いても、なかなか巧くはいかないようだ。

「あ、あと調子に乗って卵掛けご飯とかやろうとするのはダメよ。超衛生的にしてないかぎり、食中毒リスクすげい高いから」

 肝に銘じます。

 

 雑穀ご飯に漬け物、そして納豆に味噌汁という「ザ・和食」な朝食メニュー。

 しかしこの中でも例えば味噌、醤油等レイフ作なのではないものも多くあるという。

「実はコレ、僕の父にあたる人が作り出したらしいんだよね」

 意外に思い驚いて見返すと、

「前にマレビト信仰の話をしただろ?

 父もそういう“外から来た”者の一人で、ここで言う東方人だったんだとかで、ね」

 だったんだとか、という言葉から、既に亡くなっていて、しかもレイフ自身が物心つく前に……なのだろうか。

 この世界で「蘇って」からずーっとダークエルフ郷に居るためあまり実感は無いが、この世界にも所謂「人間」は居る。

「向こうの世界」における俺と同じ様な人種だ。

 物凄く大雑把には帝国人、西方人、北方人、南方人、東方人が居て、またそれぞれに細かく民族が分かれる。

 帝国人、というのはこの大陸のほぼ中央部を支配していたティフツデイル帝国の主要な人種。身体的特徴としてはラテン系に近いらしい。

 闇の森はその帝国の版図に組み込まれてはいるが、すでに聞いての通り不可侵にして禁忌の地である。

 その帝国が「滅びの七日間」と呼ばれる災厄により壊滅したのが30年ほど前。

 帝国の人口が三分の一にまで減ったとされるその災厄以降、元帝国人達は残った土地と資源、そして新たな覇権を求め争い続けていた。

 そこに、かつて帝国と敵対していた、または属国化させられていた地方、辺境の異人種、異民族達も流入をしてきている。

 つまるところ今のこの世界は、「時はまさに世紀末」な、ポストアポカリプスで群雄割拠な状態なのだ、と。

 ポストアポカリプスって何? とは聞き返せなかったけど、なんとなくニュアンスで受け取る。

 滅びの七日間以前、ティフツデイル帝国は東方シャヴィー人との戦争を行っていた。

 その東方シャヴィー人達に属国化されていた少数民族のひとつがヤハル人。

 それが、レイフの父の出自らしい。

 ナナイが旅に出ていた時期に出会い、後に郷へと連れてきたのだとか。

「そのヤハル人の文化、というのが、かなり日本に似ているっぽいんだよね」

 それで、ヤハル人の国からはるか遠い闇の森ダークエルフ達に、何故か微妙に日本テイストなヤハル人文化が流入している、と。

 これこそまさにクールジャパンや! ジャパンちゃうけど!

 ……そのレイフの父のヤハル人さんが、モヒカン兵士から種籾を守りきってくれていれば、もしかしたらうるち米のご飯も食べられたかもしれない。残念!

 

 

 そんなん感じで、又もオサレカフェのオープンテラス風なバルコニーでの朝の一時。

 土魔法により建物として生育された大きな樹木の外周を、ぐるりと回る階段の途中、半二階にあたるテラススペースだ。

 そんなファンタジックでオサレな所のテーブルで、 豚面&屁理屈眼鏡の二人でオタク的異世界トークしつつ、 ザ・和食風朝食メニューを食べていると、そこに現れるは見覚えのある姿。

 ほぼ並んで連れ立っている二人のダークエルフの一人は、昨日のアランディ'sブートキャンプの後に少しだけ話をした、レイフの従姉妹のスターラちゃん。

 その横に、スターラちゃんより少しだけ背の高い女性。帽子を被り、緑のゆったりとした服を身に纏っているのが……ザ・酒乱。

 昨夜露天風呂でエンカウントしたワンダリングモンスター、「彷徨える酒乱外交官」こと、マノンさんだ。

 こちらを見て、手を挙げながら駆け寄ってくるスターラちゃんとは対照的に、片手で額を抑えながら沈鬱な表情。

 ……二日酔いだな。間違いない!

 

「おはよう! レイフ! あと……えっと……」

「ガンボンさん、だよ」

「ガンボンさん!」

 ……おおっと、ひるまないねえ。

「あ~~、ダメ。

 大きい声出さないで……」

 死にかけボイスで懇願するマノンさん。

 お酒は程々に、と心の中でそう答えると、俺と同じことを意外な人物が意外な言葉とともに代弁した。

 

「ママ、お酒飲み過ぎちゃダメだよ」

 

 ……ママ!?

 ママ!?

 それは即ち母親であり実母であり、遺伝子的繋がりを現すアレ、ですか!?

 いや!

 いやいやいや! 

 確かに!? 確かに、並んで見てみると似てる!? 似てますけど!?

 目を剥いて二人を交互に見、レイフを見る。

 苦笑いのレイフと、きょとんとしたスターラちゃん。

 そしてやぶにらみにこちらを見たマノンさんは、

「え~~と……。

 失礼ですけど、どちら様で……?」

 

 忘れてやがる……!!

 いいけどッ……!!

 がっつり忘れてやがるッッ!!

 いいけどッ……別にッ!!

 

 ◆ ◆ ◆

 

「食べる?」

 レイフに泡立つ粘りの納豆を差し出されるも、

「あーー、いい、いい。

 てか本当、よくこんなん食べるねーー」

 嫌そうな顔を露わにして首を振るマノンさん。

 実に正直だ。

 スターラちゃんも表情は愛想笑いに近いものの、反応としては断固たるノー。

 というより、レイフと二人何等問題なくもりもり食べてる俺に、やや引き気味なようだ。

「あの人もそーとーいろんな食べ物とか持ち込んだけど、あんたの方がよっぽどだわ」

 あの人、というのは先ほど話に出たレイフの父というヤハル人、なのだろう。

「それより、この後ちょっと時間とれる? 姉さんたちもだけど……」

 もちろんコレは、俺ではなくレイフに。

 そういえば、というか、昨日の酒乱ぶりと、今の二日酔いっぷりからは想像出来ないものの、この人この郷の外交担当官なのだ。

 もしゃもしゃ納豆ご飯を頬張りながらそんな事を思い出しつつ、そういえばあの後魔女っ娘ガヤンちゃんはどーしたのだろーか、等とも思い出す。

 昨夜───魔法を使い俺の……追放者ガンボンの記憶の一部を呼び覚ましてから、ガヤンと俺は再び幻獣に跨がり郷へと戻ってきた。

 俺を下ろした後、彼女だけで再び夜の森へと“跳んで”行き、残された俺は茫然自失なままあてがわれていた客間へと行って、まんじりともせずに床に入る。

 眠れなかった……と言いたいところだが、昼間の訓練の疲れ、風呂、そして記憶の再現という一日に心身共に疲れ果ててか、気絶するように寝た。

 目が覚めてから、話を聞きたいような、何をどう聞けば良いのやら、ともやもやしつつも、結局のところどこに居るのかも分からない。

 

 そんなことをもんやり考えていると、視界に新たな一人。

 今度は、青年? 皮鎧を身に付けた、見た目高校生くらいに見えるひょろりとした体躯のダークエルフ。なんとはなしにレイフに似てる。

「おはようございます」

 爽やかスポーツマン風な礼儀正しい挨拶に、レイフが軽く手を挙げて応え、マノンはうなり声で返し、スターラちゃんは軽く跳ねるようにおはよう! と返す。

 俺はとりあえず会釈。誰だろう、と思って居ると、

「初めまして。ガンボンさんですね?

 僕はトリーア。マノンの子で、スターラの兄です」

 え、何だろう。

 親は酒乱なのに、子供はどちらも礼儀正しい。

 トリーアはレイフやマノン等ととりとめない会話を少ししてから、改めて俺の方に向き直り、

「それでは、今日の準備はどうですか?」

 と聞いてくる?

 準備? 何の? と、レイフを見ると、

「あー、ちょちょいまだだ。

 ガンボン、ついてきて」

 と、杖を突きながらゆっくりと立ち上がり歩き始める。

 いや、てか、どこ? 何?

 

 ◆ ◆ ◆

 

 移動したのは倉庫らしきところの前。

 地面に雑多に並べられた装備物品には、背嚢小袋に武器防具毛布諸々が、それぞれいくつかのまとまり毎に分けられて並べられている。

「このあたりが……」

 指し示す一画、

「まず、君が身に付けていた物と、君の物と思える装備、かな」

 角の生えた兜、金属のプレートと皮を組み合わせた鎧、硬い木に金属を巻いた無骨で粗雑な造りの棍棒等々。

 なんというか、「山賊!?」感満載な装備品類。

「あそこら辺は、君の仲間か敵か……まあ、分からないけども、周りにあった死骸の装備品類だね」

 仲間……。

 昨夜ガヤンの“魔法”で見た過去の記憶が呼び起こされる。

 仲間。そう、あのとき周りには仲間が居た。少なくとも数人の同行者は居た。それは間違いない。

 具体的に、個々の誰がどんな人物かまでは思い出せない。

 どんな関係性でどんな目的の元あそこに居たのか……それも分からない。

 

 並べられたそれら装備品類に近づき、調べる。

 大盾。覚えている。大柄な戦士風の男の持っていたものだ。

 立派な造りの鉄鎧に、大剣。これも覚えている。

 革鎧、篭手、ブーツ、短剣……。見覚えのあるような物も、無い物もある。

 それから、少し毛色の違う装備品類。

 動物、叉は魔物の角や骨、毛皮に筋などを木や石と共に組み合わせ加工した武器防具類。

 明らかに、他の物より文明度が低い。

「多分、だけども、そっちのは君たちと戦ってた敵のものだろうと思う」

 麻痺毒の矢に、大柄な襲撃者達。

「ゴブリン共だ」

 吐き捨てるようにそう言うのは、倉庫前で待っていた、蘇った日にナナイと共に助けに来てくれた護衛の……エヴリンドかエイミのどちらか……どっちだろう?

 その言葉には、軽蔑や嫌悪のような感情が含まれているように思える。

 ゴブリン……。

 たいていのゲームやラノベのファンタジー物では、オークと並んで「緑の肌をした、凶暴で邪悪な小鬼」程度の扱いだったはず。

 とにかく「集団で人々を襲う、個々にはたいして強くはない低レベルのモンスター」くらいなものだ。

 ただ、オークである俺が、そういう所謂テンプレ的な「豚の顔をしたモンスター」では無い以上、この世界のゴブリンももっと違う存在かもしれない……とか考えていると、レイフが耳打ちしてくる。

「この世界のゴブリンは、大まかには多分君の持ってるイメージと大差ないと思う。

 世界中色んな所に棲息してて、洞窟などに群で住み、時おり旅人や人里を襲う。

 補足すると……食人や強姦もする」

 何それ怖い!?

「人間、エルフ、オークなんかとも交配が出来る種なんだよ。寿命はかなり短いけど、その分繁殖力は強い。

 捕まると、群によっては繁殖用に飼われて、使えなくなれば喰われる」

 多分聞きながら、白眼を剥いて嫌~な顔をしていたと思う。

「ただ、個々の力は本来強くない。

 なので大抵は人の来ない、生息域の被らない森、山奥や地下深くに住んでて、野生の地豚やらネズミにミミズ、コウモリに山鳩を狩ったり、他の肉食動物の食い残しの死体を見つけてそれを食べたり、ドングリや木の実、茸や葉っぱを採集して生活している」

 あれ、何か急に牧歌的な雰囲気?

「群によって性質がかなり変わるんだ。

 元から人里から遠いい地域で暮らして居る群は、縄張りさえ犯さなければぶつかり合うこともほとんど無いし、わざわざヒトや他種族を襲撃したりもしない。

 ただ、人里近くに住んでる群は……人を襲い、捕虜にして“囲う”ことを覚える。

 人間のやっていることを、真似して覚えるんだよ」

 何だろう。邪悪な小鬼、というより、野生の熊とか猿みたいだ。

 人間が山を開発することで生息域が重なり、結果ぶつかり合って「人肉を食うことを覚えてしまう熊」とか、「小枝や石などの道具を使う賢い猿」みたいな?

「ここらの奴らは、以前はそこそこ大人しかったんだがな」

 レイフとの会話に交ざってたわけではないが、エイミかエヴリンドのどちらか(それとなくレイフに確認したら、エヴリンドの方だった)が補足した。

「ゴブリンの群が住んでる闇の森外周部は、一般の人間はあまり近付かない。僕らダークエルフはもっと奥に住む。呪い……闇の魔力の強い地域、だ。なので、その中間に居るゴブリンとはそれなりの棲み分けは出来てたんだよ」

 それが、ここの所活発化しているらしい。

「まあ稀に、強くなった個体が狩りのリーダーになると、過信して森の奥の僕らダークエルフの生活圏や、森の外の人間の生活圏まで遠征することもある。それで集落やヒトを襲えば、後に傭兵や教会、領主の兵士等がやってきて、群を殲滅させたりする。僕らの方に来たときも同様。

 結局のところ、“半端に強い個体”が出てこない限りは、あまり問題は起きないんだよね」

 けれども……だ。

 今回の「ゴブリン」達は、ダークエルフ達の領域近くまで遠征して、武器を持った人間やオークの居る集団を襲った……ということになる。

 物凄い積極的だ。

 しかも俺が見た影は、どう考えても小鬼、という体格では無かった。

「“ホブゴブリン”の数が増えている。夏前辺りからだ」

 エヴリンドは護衛だが、同時に郷周辺の広範囲の偵察役でもあるという。

 彼女によれば、足跡や木々に残る痕跡や“狩り”の残りからして、このあたりのゴブリンの群には、成長し大型化した個体、俗に言うホブゴブリンがかなりの数含まれるようになってきているらしい。

 明らかに“異常”な程に、と。

 

 平均的なゴブリンの個体は、同様に平均的なダークエルフより身体能力的にも劣る。

 しかし成長して大型化したホブゴブリンは、平均的ダークエルフよりも頑強で強い。

 同数のゴブリンとダークエルフが魔法を使わずに戦ったとしても、ほぼダークエルフが一方的に勝つが、同数のダークエルフとホブゴブリンでは、魔法を使って五分、下手をすると最初の勢いに押され魔法での対応に遅れれば、かなりの損害を受けるらしい。

 ゴブリンの群のホブゴブリンの数は、そのまま脅威度の高さに繋がる。

 その上……と補足して、

「ゴブリンシャーマンまで交ざっている」

 シャーマン、即ち呪術師。

 ゴブリンシャーマン自体は、概してダークエルフの呪術師には及ばない。

 呪術師同士で闘えば、間違い無くダークエルフの呪術師が勝つ。

 しかしゴブリンシャーマンが「ゴブリンの群を“指揮する”」ことで、群れ全体の脅威度が跳ね上がるのだそうだ。

 精霊獣の召還や、魔法による強化、狼などの動物の使役……等々、ゴブリン側の戦術、選択肢が一気に増える。

 忌々しげにエヴリンドは、森の中の何処とも知れぬ場所へと視線を向ける。

「ここ……も……?」

 襲われたのか? と思ったが、

「いや。郷までノコノコ来るほど愚かでは無いようだな。

 だが森の外で人間の一行を襲ったであろう痕跡も見つけている」

 この郷には直接的な被害はまだ無いが、看過できぬ程の存在となっている……と言うことのようだ。

「お前達は野営の最中にゴブリンの群に襲われた。

 反撃して乱戦になるが、途中で岩鱗熊に乱入され、お前以外殆どが死んだ。

 恐らくそんなところだろう」 

 現場検証の結果としては、そんなところらしい。 

 

 俺は改めて、残された装備品類を見る。

 角兜、鎧、棍棒。

 なんとなく見覚えがある気はする。

 棍棒の柄を握ってみれば、これはこれで手に馴染みしっくりくる。

 背嚢や小袋、旅に必要な日用品類等は、そんなに思い入れも無かったようだが、唯一使い古しの鍋だけは自分の物だ、との確信があった。

 まあ、一度手にしているしね。狼に囲まれてたとき。

 それと金や宝石、アクセサリー類……。

 うーんむ。

 何かこれらには、やたら惹かれるものがある。

 単純に「金目の物」として惹かれる、というのとはやや違う感じだ。

「幾つかあるんだけど、特にこの辺りの小袋にやたらと入ってたのがね」

 レイフが袋の口を開けて指し示す。

「ぶっちゃけ、ものすごい安物。なんだけど、手入れだけはしっかりしてる」

 指輪にネックレス等々。

 確かに目に見えて高価な石などはないのだが、金属そのものが磨かれて妙に輝いている。

「その手入れ具合が、君が着けてたやつとよく似ているんだよね」

 言われて、身に付けていた名前入りプレートのネックレスや、身に付けっぱなしの金の指輪と見比べてみると、確かにそう思えなくもない。

 なんだろう、なんというか……ギャングスタ的なゴールドアクセジャラジャラ感が好きだったのか?

 試しに幾つか指輪をしてみると……あー、すげいしっくりくる。

 してた、してた。俺、これ絶対してたわー。かなりのチェケラッチョでヨーメーンでプチャヘンザッ!! だわ。

「ま、とりあえず君の物だと思える物は持って行ってよ。

 それと……」

 最初からずっと付けていた金の指輪を指し示し、

「これ、多分呪いの指輪らしいんだ」

 なぬ!? なぬなぬなぬ!?

 またも目を剥いて驚き見返す。

「外れないだろ?」

 言われて、右手で指輪を掴み引っ張るが、むっちりとした左手人差し指のそれは、頑ななまでに動かない。

 肉に食い込んでる、ということでは無さそうだ。

 なんというか……指に、ではなく、その奥のより確固たる何かにからみつき食い込んでいる……。

 そんな気がする。

「正直、解呪も出来ないし、どんな呪いかも分からない。

 けどガヤン曰わく、この指輪自体も呪いではあるんだけど、同時に加護でもあるらしいんだ」

 ん? どゆこと?

「つまり、僕らの……ダークエルフやオークの“呪われた種族”というのと近い。

 この指輪の呪いが、他の呪いを抑える効果も持っている。

 まあ、それを付けて旅をしていたらしいのだし、即座に命の危機に関わる……という類の物では無いんじゃないかな、と言ってた」

 むむむ、と。

 何にせよ要注意、ということかなあ。

 嫌だな~、怖いな~。

 

「で、そろそろ始まる時間だが、まだか?」

 半ば存在を忘れてたエヴリンドが、待ちくたびれたとでも言わんばかりに声をかけてくる。

 というかこのヒト、何で居たんだ?

「ああ、ゴメンゴメン。

 ガンボン、とりあえず自分の装備をして確かめてみて」

 促され、確認していたそれらに目をやる。

 鎧兜に、金属の巻かれた無骨な棍棒。皮の篭手とブーツに、黒くてゆったりとした下穿き。

 今着てる服は貸して貰ったダークエルフ達の普段着で、着替えるとなるとそれらを全部脱がなければならない。

 装備を抱え込みつつキョロキョロと辺りを見渡すと、

「あ、とりあえず倉庫の中で良いよ」

 とレイフ。

 向こうの世界での感覚を共有してくれているので助かるが、恐らくは装備の着替え程度で羞恥心を感じる文化のないエヴリンドは、やはり「変わったオークだな」とでも言うような顔をしてこちらを見ていた。

 ど、ど、どこ見てンのよゥ!?

 

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