(6)誤算
***
後悔はしていない。むしろ今までで一番生きているって思えた。楽しかった。だから、もう思い残すことは何もなかった。何も。
後少しで終わる命。俺の人生を振り返ってみても良い思い出なんてなかった。だから未練なんてないし、とっとと幕を閉じたかった。
十七歳になるまで、あと、三十分。二十分。と刻々と迫っていく。やはり死ぬ間際になっても恐怖は全く感じなかった。逆に楽になれるのが嬉しくてたまらなかった。
もうすぐか、そう思いながら目を閉じた、その時だった――
「こんばんは」
耳元で囁かれた。でも驚く気力すらない。
「相当参ってるね。……死ぬのが恐くないの?」
「……くない」
「……そう。……死ぬより生きる方が辛い?」
俺はこくりと頷く。それに対して案内人は憐れみのような蔑むような目を向けてくる。
「それは残念だ。君はつくづくついてないね」
は? さっきから何を言って――
「君が死ぬのはあくまで二人が生きていた場合だ。でも、もし『一人が先に死んだ』ら?」
――は?
「今、もう一人の咲が死のうとしている。もし咲が先に死ねば、君は生き残れるんだよ」
は? い、いやだ! 生きるなんて!
薄暗い月明りに照らされた暗くて不気味な案内人の口許がぐちゃりと歪む。
「自業自得だよ」
「や、やめ、やめろおおおおおおおぉぉ!!」
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