(3)違和感

         ***

 授業中、ふと壁際に佇んでいる彼――竹林たけばやし くうに視線を向ける。彼は猫背で眼鏡をかけた普通の男子生徒だ。ただ、人と話すのが苦手で一人でいるのが好きなだけだと思う。けれど、周りの人達は彼を陰キャとかキモイとか言ってからかう。もうそれはいじめの域に達しているんじゃないかと思う時も時々ある。そのせいで最近は学校を休みがちになっている。

 私はそういう人達を許せないし、被害者の人を助けてあげたいと思っている。

 そんなことを隼人に話しながら帰り道を二人並んで歩いていた。彼は真剣に私の話を聞いてくれて「偉いな」と褒めてくれた。そしてわしゃわしゃと頭を撫でられる。それが好きで何とも言えない幸福感に満たされて思わず口許が緩んでにやけてしまう。

 本当に私は彼が好きだなーと毎回実感する。

「……咲、大丈夫か?」

 勾配が緩やかな坂道を上りきった時だった。

「えっ、何が?」

 唐突に聞かれて面食らう。

「いや、どこか浮かない顔してたからさ」

 はにかんだように頭を掻く彼。

「あ、ああ、うん、ちょっとね。……最近誰かに見られている気がするんだよね」

「えっ、ストーカー!?」

 今度は彼が面食らう番だった。

 確信はないんだけどね、と付け加える。ここ最近、誰かからの視線を感じることが多くなった。上手く説明できないけど、こう、なんか内側から見られているような……。

「もし、そんな奴がいるなら俺がぎっちょんぎっちょんにボコってやるから、心配すんな」

「ふふっ、そこはけちょんけちょんとかギッタンギッタンじゃなくて?」

 そんなどこかおかしい彼を見ていると気持ちが晴れて、自然に笑えるのだから不思議だ。

 家に帰ると「ただいま!」と爽やかな声が響き渡る。四つ離れた妹と愛犬の黒が出迎えてくれた。両親は二人仲良く夜ご飯を作っている最中だった。

 食事を終えお風呂に入り彼と電話をしてベットに入った。

 また、変な夢を見た。見てて切なくなる、そんな夢。だけど、覚めてしまったら、すぐ忘れてしまうから内容は分からないままだったけれど。ここ最近ずっとそうだった。


 何かがおかしい、そう感じざるを得なかった。明らかに異変が起きている。ここ数日でさらに視線が強くなってきていた。それだけじゃない。昨日私はドアの前で倒れていて、吐いていた。寝返りをうった記憶ももどした記憶もなかったのに。結局昨日は気持ち悪くて久しぶりに学校を休んだ。そして今日も。こんな異常なほど健康な私が熱を出すなんて。珍しく私はネガティブになっていた。だから本当にストーカーが家に入りこんだんじゃないかって思ってしまった。もちろん、そんなはずはないと思うんだけれど。一応夜になったら電話で彼に相談してみよう。――彼、という存在を思い出すだけで心が軽くなって、身体中の怠さがなくなっていった気がした。

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