(2)天涯孤独
――なんでこうなったんだろう。
もう何十億と繰り返してきた質問が今日も自分自身を咎め続ける。
暑苦しく憎い太陽に向かって溜息を漏らす。すると―急に気持ち悪くなって、目の前がぐらりと歪む。まただ、いつも唐突にやって来る。余りの酷さに舌打ちしながら、目を閉じて、瞼の裏で深呼吸を繰り返す。そして、もう何度も何度も、擦りきれるほどに繰り返している、自傷する「儀式」を無意識に行う。
最初は身体面。髪からはフケが出てきて、髪はぼさぼさでベトベト、目の周りはたるんで一重、鼻の周りにニキビが無数にできて、口の中は何かのせいで臭い、肌は荒れてかさかさでニキビや汗もができている。そして毛もそれなりに出てきている。
次に能力面。まずは頭の悪さ。俺は他人と比べて著しく覚えるのが苦手だ。だから当然、最下位。運動でもそうだ。全部ビリ。体力も身体的技術もないんだから当たり前だ。
それに加えて重度のコミュ障。
人間じゃない、酷く醜い化け物――
儀式が終わると、幾分か楽になっていた。
もう一回溜息を吐く。それと同時に咳が出た。ふと「咳をしても一人」という言葉が浮かんできた。どこぞの教科書に載っていたやつだと思う。物覚えが悪い俺が唯一覚えているものかもしれない。
――本当に俺は孤独だった。前に天涯孤独という言葉を聞いた覚えがあるが本当にその通りだった。
俺は両親に見捨てられた。愛なんて貰ったことは一度たりともなかった。当然だ、こんな醜い俺なのだから。褒められた記憶は一切ない。あるのは俺に手を上げ物に当たり怒鳴り散らし暴れ荒れ狂う両親の姿だけだ。俺はずっと抑圧されながら、我慢しながら生きてきた。子どもらしさを遠慮なく発揮できたことなんて一回もなかった。
もちろん当時の俺は深く傷ついたが、年齢を重ねるごとに少しずつ自分が悪いんだと気が付いて悲しむこともなくなっていった。
そうして俺は天涯孤独となった。
ふと鳥か何かの鳴き声で我に返って、空を見上げると夕陽が沈みかけているところだった。俺は重い足取りで帰路についた。
もう何年も使い古した布団に横たわり目を閉じると、途端に夜の帳の中から、言葉の雨が降ってくる。汚い、キモイ、臭い、ブス、死ね、セクハラ、変態……。過去に浴びた言葉の雨は、蒸発して空に昇り、雲になって、また俺に降ってくる。無数の棘のように鋭い雨となって、俺の上に延々と降り注いでいる。いつまで経っても止まない。そして、言葉の雨に打たれてびしょ濡れになって、全身に突き刺さった棘が俺の動きを封じる。冷たさと痛みと苦しさで、確かにあったはずの眠気がどんどん俺から離れていき、目が冴えていく。
何時間かの後、瞼が落ち、意識が飛ぶ、そんな瞬間、ちらりと脳裏に何かが過った。一瞬だったけど、酷く鮮明に映っていた――
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