第6話
はっきりいって状況はとてつもなく悪い。
父さんは魔力が残り少なくなり、魔王は少なくなったとはいえまだある。
父さんの魔力が無くなってきた以上俺がやるしかない!
「おらっ!魔王!覚悟しやがれ!」
「翔海~父さんが合わせるよ~自由に動いてね~」
じいちゃんの教えを思い出せ...!
「翔海、ワシの剣術には2種類ある。攻める剣術と受ける剣術。この二つを有効的に使うんじゃ」
「どういう風に使うの?じいちゃん」
「まず、受ける剣術で相手の攻撃を受け流す。受け流し続ける。分かるか?」
「分かるよ!」
「待って、待って、待ち続ける。そうすればきっと相手が隙を見せる。その隙に攻める剣術を使うのじゃ」
「簡単じゃないか!」
「簡単だが難しいんじゃ。剣術は体重移動が大事。ワシが日々言ってることじゃそれを高速でやるんじゃぞ?」
じいちゃんの教えを思い出せ!受け流すぞ!
まだだ...まだ...まだ...ここだ!
大事なのは体重移動!前へ!
「何!?...ぐ!!強敵は勇者だけではなかったか...」
「袈裟斬りだぁ!」
これで魔王の魔力をかなり削れた筈だ...
腕を治すのに魔力が大量に必要というなら回復するのにもかなり使う筈だ。
「無駄な魔力を...そこにいるのは分かっているぞ!勇者!」
「ぐわぁ!」
父さん!足に...氷が刺さって...
「終わらせてやろう。刮目せよ!勇者とその仲間よ...これが余の全力だ!」
大きく...まだ大きくなるのかこの火の塊!
これ...この刀で斬れるのか...?
「翔海!...父さんは今動くのが厳しい!ありったけ持ってけ!」
俺の刀が更に蒼白く光る...
でも...これじゃ足りない。
俺は本能的に理解してしまった。
これではあの巨大な火の玉は消せないと。
「まだ足りないか!仕方ない!ほらっ!」
俺の刀が目を開けていられないほど蒼白く光輝く。
これなら...!いける!
「消し炭になれ!勇者どもよ!」
「死ねぇ!魔王!」
くっ...これだと厳しいか...?
徐々に押し返されて行ってる...でも魔王もかなり辛い筈だ。
こっちの時空に来るために魔力をかなり消費している筈だから。
ここを耐えれば...僕の勝...くそっ!まだ押されてる...
「頑張れ!翔海!出し惜しみなしの追加だ!」
父さん!あるなら先に出してくれよ!
段々と押し返せている...
「そんな魔力何処から出てくるのだ!?」
「おりゃぁぁぁ!魔王覚悟しろぉ!」
その時火の玉が真っ二つに斬れた。
同時に魔王も真っ二つにしていた。
「余が...余がこんなやつに...いや、お前も道ずれだぁ!」
剣が来る!
もう避けられないし魔王を真っ二つにした剣ももう戻せない!
なんでこいつまだ生きてるんだよ!
ガキィ!
「一人で逝けよ~魔王!」
「父さん!」
「勇者!最後まで余の邪魔をしやがってぇぇぇぇぇ!」
魔王は最期に勇者に捨て台詞を言って死んでしまった。
「倒してくれてありがとう!翔海!お前はさいこ....ウッ!」
「父さん!?どうしたの!!」
「すまん...父さんはもう駄目みたいだ...」
「でも魔王は倒して!」
「父さんが魔力をどうやって作っているか...覚えているか...?」
父さんの魔力は生命力....!父さんは自分の生命力を対価に俺の刀に力を...
というかあの時俺が死の恐怖に囚われていなかったらこんなことには...
「翔海~そんな顔をするな~父さんまで悲しくなるじゃないか~」
なんでそんな優しい声が出せるんだよ....!父さん!
俺のせいで...俺がもっとうまくやれていれば!
「なぁ~翔海~父さんは最強無敵でいられたか~?」
「うん!うん!父さんは最強で無敵だよ!」
「なら良かった~父さんが最強で無敵だと思われることは僕の唯一のちっぽけなプライドだったからな~これで思い残すことはないよ~」
全然ちっぽけじゃないよ父さん...あと思い残すことの一つくらいあってくれよ...
「そろそろ体の崩壊が始まったな~足の感覚がもうないや~」
その声を聞いて俺は父さんの足を見る...もうない。
父さんの足は崩壊してしまっていた。
「これから体も崩壊を始めるのかな~」
「なんでそんな明るいんだよ!」
「家族とプライドを守れたからだよ~父親っていうのはそんなもんさ~」
なんだよそれ!最強なら崩壊もなんとかしてよ......!
「そろそろ死んじゃうから最期にちょっとだけ話すよ~翔海~駆けつけてくれて本当にありがとう~父さんだけじゃ魔王を倒せなかったよ~翔海も本当に成長したねぇ...父さん泣いちゃうよ。そして家族の皆に今まで苦労かけてごめん、そして今までありがとうって伝えてね~それ...じゃあ海翔今まで....あり...が...と...う~...」
父さんが消えた
文字通り消えた、跡形もなく。
最後の言葉は今まで苦労かけてごめん、そし
て今までありがとう。
独り寂しく帰って何が起こったか家族に話した...皆泣いた。
勿論俺もだ、あんなに明るかった父さんはもう居ない。
その事を感じる度に涙が出そうになる。
父さんが死んだという事実が以前の行方不明と違って俺達に重くのし掛かる。
前を向くしかないんだろうけどなぁ...
そうそう、このことをじいちゃんにも話したんだ
「家族と世界を守って寿命で死んだか...そうか!そうか!」
「え?なんでそんなことを信じるの?」
「お前が持ってきた刀を見れば分かる。あんな刀はこの世界だと作り出せん。だから信じた。ワシの息子は良くやったな!」
じいちゃんは嬉しそうでもあり悲しいそうでもあった...まぁそうだろうな...息子を守って死ぬ父親なんて立派以外の何者でもない。
「そんな顔をするな!ワシの方まで悲しくなる!」
「その言い方~父さんとそっくりだよ~」
「翔海もな!」
何を思おうが何をしようが父さんは戻ってこない。
父さんが救ってくれたこの命と...この妖刀...まだ名前つけてなかったな...隆二のりゅうと俺の翔を取って妖刀竜翔と名付けよう。
さぁ!また明日が始まる!
「父さんは居ないけど明日も家族で頑張るんだぞ~」
そう言う父さんの声が聞こえた気がした。
異世界帰りの父さん こんにゃく @konnnyaku
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