第8話「吾輩はネロである、死因は反乱」
『──昨日の昼頃、警察の捜査ヘリが落下した事件。調査を進めると排気ダクトに槍の様な物が刺さっていたことが判明し、警視庁はこれについて『不思議だね』と回答。以降調査は──』
車のラジオから流れるニュースなど耳に入れぬまま目的地へと進んで行く
すると──後方から暴発したような音が聞こえ、サイドミラーに
「あぁ! ざけんなよ!」
観察してみると真ん中に刺さっていたのは小さな弾丸、後ろを一瞥すると男たちはバイクを運転しながら銃を撃っていたのだ。
「クソ! フランスのバイクスクールは何してるんだよ!」
「あぁ……あぁ……あ、ああ……」
荒く激しい
二日連続で吐くのは
「こういう時は……万国共通のコレ」
と、一つの案を
クタバレ。
「あの小僧、ギャングにファックと宣言することがどういうことか教えてやる! 全員、撃って撃ち尽くせ! 殺した者は報酬タンマリだ!」
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」」
通信機越しに響くロッチの命令に部下たちは奮起し、ジグザグ運転で回避する戯賀の車に銃弾の雨を浴びせていく。
車のガラスは次々と割られて喜嬉は頭を抑えながら体を丸くし、戯賀が立てた中指の爪の上を銃弾が
「あぶなっ!」
すぐに右手を引っ込めると今度は喜嬉が窓から顔を出し、ギャングたちに向かって話しかけ始めた。
「え~っと、私たちはー! えっと何だっけ、スキー場でカーリング……? 絶対違うな、リリカ……、えっと~リリカル……あれぇ~?」
「ひっこめアホ!」
急いで喜嬉を引っ張って席へと戻し、人格が入れ替わったことに戯賀は少々絶望する。
「
「あ~」
呑気そうに「なるほど」と、言いたげに頷く喜嬉を尻目に運転していると──高速道路という自動車専用道にも関わらず、外側で駐車していた故障中の車から少年が飛び出してきて戯賀は眼を大きくした。
「あっっっっっっっっっっっぶねぇ‼」
「はい」
衝突直撃コースに入った刹那──ハンドルに手を出してきた喜嬉が右へと回し、すんでの処で何とか回避して道ある道をそのまま突き進んでいく。
突然のことで体が固まり、少年がその場にへたりこむと母親が急いで彼のもとに近寄ってきた。
「るい! もう、自動車屋さんが来るまで車の中で待って行ってでしょ~危ないんだから!」
「ご、ごめんなさ~い……!」
慌てながらも母親が来てくれたことに安堵し泣き出すと、息子を抱き上げ車の方へと歩んでいく。
「さ、ここは危ない所なんだから、ママと一緒に車で──」
その瞬間、母親と息子の体がギャングのバイク軍団と衝突し空を舞った。
母子の空の旅は苦痛と共に一瞬で墜落してアスファルト道路に叩きつけられると、ロッチの車に轢かれトドメを刺されてしまう。
高速道路は危ないから降りてはいけないのだ。
「耐えがたきを耐えて忍び難きを忍ばないのかよ、フランス人はよ!」
「ねぇ戯賀さん」
「なに?」
余裕も無い状況の中、彼女の方を向くと戯賀は眼を細くし疑うように問いた。
「……なんでそんなの持ってんの?」
満面な笑みで、まるで親にでも自慢するかのように見せつけてきた
「いやぁ~別の人格の私もよくやりますよ~いつの間にか持ってたんですから、私もさっき気付いたんですよぉ」
「……お前を車に入れた時に奪ったのか」
真面目な性格ながら変な所で暗殺対象の性格に似て、
銃を懐にしまうと喜嬉はカーチェイスの中でコンビニ袋を漁り、取り出したメロンパンを食べると
「うえ、パサパサじゃないですか! いらないや」
メロンパンを窓から投げ捨てた瞬間をバイクに乗った男たちは──
「爆弾を投げて来たぞーーーーー‼」
勘違いによる怖れで何台か止まるとそのまま玉突き事故を発生させてしまい、五台のバイクが一気に使用不可となってしまった。
「クソ! 爆弾を投げるとは
加速していく闘争は裏の世界を生きるギャングたちを熱狂させ、発砲し続けていた弾丸は遂に後輪のタイヤに命中してしまう。
「後ろのタイヤをやられた! 急いで距離を取るぞ!」
タイヤから火花を散らしながらも全速力で駆け抜け、距離を取っていくと──危うい運転は勢い余って逆走の方へと車を乗り上げてしまった。
そして案の定目の前には走行中のトラック。
「うわぁ! 前からトラックが!」
絶体絶命、万事休す──二人は最大のピンチを迎えた。
しかし、その時だった。
必然的に衝突するはずだったトラックの目の前に突如として一筋の雷光が降臨した。
トラックは突然現れた光によって受け止められ、バンパーが凹むと運転手は訳の分からない状況に困惑しながらも絶叫して車から逃げだしてしまう。
非現実的な現象に我が目を疑っていると、光の中から一人の女性が姿を現した。
胸部と陰部以外は肌を殆ど露出しており、もはや鎧の意味を成していない痴女衣装。
角度によって色が変わる不思議な盾と剣を握りしめたまま、女騎士はこの高速道路という地に降り立ったのだ。
「……ターミネーターじゃなそうだな。見た感じ1.68メートル、いや168センチはある。
──あれ……この数字どっかで……」
警戒しながらも戯賀は車を降りると、目の前にいる変態女騎士に向かって声を掛けてみた。
「あの~……女騎士陵辱物のAVの撮影は、よそでやれって監督に言ってくんない?」
申し訳なさそうに話しかけると女騎士は頬を赤らめながら首を横へ振り、否定するように叫びだした。
「違うわよ! AV撮影なんかじゃない! 私は魔王と──
……ちょっと待って……AV? 今、AVって言ったの……?」
「なんだ、無知シチュか?」
戯賀が言った一言に対し異常なまでに反応すると、女騎士は静かに辺りを見渡しだす。
曇り空、舗装された道、人工的に作られた崖の下にある森──素通りする自動車。
「わ、私、帰って来たんだ……」
「は?」
呆気に取られながらも困惑した表情を見せる女騎士に首を傾げながらも、戯賀は手に持った武器を一瞥する。
「素人目で見た感じ……お前が持っている盾は“妖精の涙”で、剣は“伝説の竜の牙”で作ってたやつか? よく出来てるなオイ」
「あ、あの! あなた! ニュースとかで私を見てはいませんか⁉」
「見てない知らん」
「私は……アサ……『
……信じられないかもしれないですけど、先程まで異世界で魔王と直接対決をしていたんです!」
「エクサ・アサ……?」
脳みその中にある記憶を
確か、陰キャ顔面ブサイクジャガイモ百合豚が突き飛ばしたいって言った女の名前が──
「……あ、あぁ~~~! あぁ、あぁぁぁ~~~~!」
何という事だろうか、その逆もあり得るという事か。
戯賀の目の前にいる痴女騎士は──二日前に轢き殺そうとした結果、異世界転生させてしまった女子高生『江草彩紗』。
彼女は、戯賀たちがトラックと衝突しそうになったことにより異世界転移──
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