第38話 宙を舞うドラゴン
「香奈ちゃん、大丈夫!?」
慌てて香奈ちゃんの元に駆け寄る。
「だ、大丈夫です」
強がってはいるものの、その声は恐怖で震えているようだ。それに、転んだ拍子に膝を擦り剝いてしまったている。
(あの金髪野郎……!)
あいつが走り去っていった方を思いっきり睨みつけるが、そのの背中は既に遠くに消えていた。
「みんな、こっちへ!」
遠くで栗田さんの声がする。
香奈ちゃんの手を引き起き上がらせると、荒れ狂うグランドドラゴンを避けどうにか栗田さんの元へ駆け寄ろうとするが――素早い動きで間に割り込まれてしまった。
(こいつ……! 見た目に反して意外と素早い!)
ドラゴンは俺たちに背を向け、栗田さんたちを睨みつけて低い唸り声を上げる。
「まずいよ! 分断された!」
ドラゴンの向こうから須田さんの声が聞こえる。
「ここは俺が引き付けます! 皆さんは先に逃げてください!」
大声で栗田さんたちに呼びかける。向こうは後退すれば街まで逃げられるはずだ。
そうすれば助けだって呼べるはず。
「ダメです! 二人を置いて行くわけにいきません!」
ドラゴンの陰に隠れて姿は見えないが、栗田さんの勇ましい返事が聞こえてくる。
「違います! 街まで行って助けを呼んできて欲しいんです! このままここに居ても全滅するだけです!!」
そんなやり取りをしている間にも、ドラゴンは痺れを切らしたのか再び暴れ出した。尻尾を大きく振り降ろすと、地鳴りのような音が響き渡り辺りの地面に亀裂が走り出した。
「……っ! わ、分かりました! すぐに助けを呼んで戻るので、どうにかそれまで耐えてください!」
栗田さんがそう言い終わると同時に、ドラゴンの顔の付近で爆炎が上がった。
どうやら真紬梨さんが例の魔法を放ったようだ。
ドラゴンには微塵のダメージも入っていないようだが、一瞬の目くらましにはなったか!? 栗田さんたちの足音が離れていくのが聞こえる。
その後を追おうとするドラゴンに向かって、今度は俺が大声で威嚇をする。
「おい、待てトカゲやろう! 俺が相手だ!!」
我ながら、こんな強がった台詞を吐く日が来ようとは夢にも思わなかった。
日常じゃ大声を上げたことすらここ数年なかったんじゃないだろうか。状況ってのは人を変えるんだな。
そんな呑気なことを一瞬考えていたら――言葉が通じたのか、挑発に乗ったドラゴンがノシノシとこっちに向き直った。
「お、何だ、やるのか!?」
内心ではビビりながらも腰の剣を抜く。
素人丸出しの構えで立ちはだかる俺をみて何を思ったのか……ドラゴンはグググと肢体を沈みこませる。そして――そのまま四足で地面を蹴り宙へと舞い上がった。
「……おいおいおいおぃ!! ウソだろっ!!?」
ダンプカーよりもデカイんじゃないかという巨体が、ふわりと宙を舞い俺の頭上へと襲い掛かって来る。
大慌てで香奈ちゃんの手を引いて走るが、一瞬にして辺りを包んだ影が徐々に大きくなりどんどんとこっちに迫ってくる。
「うぉああああ!」
「きゃぁぁ!!」
香奈ちゃんを抱えて、全力の横っ飛びでどうにかボディープレスを躱す――が、とんでもない重量の衝撃を受け、辺りの地面が音を立てて崩れ始めてしまった!!
「な、なんだぁ!?」
地面は次から次へと崩落の連鎖を起こし、大きな裂け目となって地下へと崩れ行く。どうやら、草原の地下に大きな空洞があるようだ。
「ヤバい!! 香奈ちゃん、掴まって!!」
崩落の大きさから考えて逃れるのは無理そうだ! どうにか香奈ちゃんを引き寄せ、ドラゴンもろとも落ちる岩盤に混ざり地下の洞窟へと転がり落ちていく。
転落する間、俺は必死で香奈ちゃんを抱きしめ自分の体で彼女を守るようにして岩の間を転がった。
もうどっちが上でどっちが下かも分からないほどにもみくちゃにされたが――やがて、重い衝撃とともに落下は止まり、洞窟の底に落ち着いたようだ。
「あ、あう……」
腕の中で香奈ちゃんが震えた声を上げる。俺も痛みをこらえながらどうにかその無事を確認する。
「大丈夫か? 香奈ちゃん」
「は、はいどうにか。あ……叶途さんは!?」
言われて手を動かしてみると、鋭い痛みが走る。
明かに左腕の様子が変だ。落ちる時に酷くぶつけたらしい。
「――っ痛って。それより、ドラゴンは!?」
落ちて来たドラゴンの方を見ると、仰向けにひっくり返って四足をバタつかせている。どうやらあの巨体でひっくり返ると起き上がるのには時間がかかるようだ。
「不幸中の幸いか。今のうちに隠れよう!」
有難い事に、辺りには巨石や入り組んだ横穴が沢山ある。ここなら身を隠す事も出来るだろう。
肩を貸してくれた香奈ちゃんと手を繋ぎ、岩陰にあった横穴の奥へと姿を隠す。
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