第37話 やっぱりやらかした
「へぇー。真紬梨さん、神奈川でお店持ってたんですね」
「凄いなぁ、その若さで」
「えぇ、一時期は3店舗経営してたんだけどね。色々あって今は全部手放したけど」
列の後ろの方で、真紬梨さん、香奈ちゃん、須田さんが身の上話で盛り上がっている。
「何だか勿体無い気がします。今日の服装も素敵だったのに。私はファッションとかさっぱりだから」
「あら、ありがとう。ねぇ、今度東京に行ったら一緒にお買い物行かない!? 香奈ちゃんみたいな可愛い子の洋服選ぶの、私好きなの!」
「え、本当ですか!? プロの店員さんに一緒に選んでもらえるなんて」
「元プロだけどね。学生さんでも買いやすいコスパのいいお店とかいっぱい知ってるし。行こう行こう!」
「やった! 絶対行きます!」
「お、いいね。僕の服も選んでもらおうかな?」
「いいよ! けど、その前に須田さんはまずそのお腹少しへっこめないと。一緒に運動しようか?」
そそんな会話を交わしながら笑い合う三人。最初はちょっと緊張していたけど、だんだんと打ち解けてきた感じだ。
初めての場所で初めての経験をするってのは人の関係性を一気に加速させるんだな。
「皆さん、ストップです! この辺りからグランディオーソ草原みたいですよ」
先頭を歩いていた栗田さんが立ち止まり、振り返って皆に知らせる。
「ど、どの辺までがそうなんですかね?」
「えっと、あそこに見える森の辺りから、あちらの山の麓までがそうみたいですね」
広い草原の奥は鬱蒼とした森が広がり、その森に沿って迂回すると険しい山道に辿り着くようだ。
「それでは手分けして探しましょうか。皆さん、もう一度星屑草のイラストを確認してください」
栗田さんが依頼書を取り出し、皆で星屑草の詳細な外観を再確認する。
「お互いあまり離れすぎないように注意です。私を中心に、何かあればすぐに合流できる範囲で行動してください」
「「了解でーす」」
栗田さんの指示に従い、お互いに見える距離を保ちながら周囲を注意深く探索し始めた。
◇◇◇
(んー、意外と見つからないな。最低ランクの依頼だし、1個だけならあっという間かと思ったけど……)
探し始めて10分くらい経つけど、5人で手分けして探しても星屑草の姿はどこにもない。ついでに摘んでた、薬効があるらしい草ももう両手いっぱいになってきた。
ふと顔を上げると、皆夢中になってるのか結構広い範囲にバラけて捜索しているようだった。
「見つかったかいー?」
遠くから須田さんが声をかけてくる。
「すいません、まだですー!」
大声で答えると、遠くにいる真紬梨さんと栗田さんも立ち上がって手でバッテンのサイン。
(――あれ? 香奈ちゃんはどこだ?)
周りを見渡すけど、香奈ちゃんの姿が見えない。
「香奈ちゃん? どこ行った!?」
驚いて声を上げると、皆んなも慌てて辺りを見渡す。
「――あ、ここです! ごめんなさい!」
少し離れた所から声がして、香奈ちゃんが草原にポツリとあった大きな岩陰から姿を現した。
「見つけました! 星屑草、ここにいっぱいあります!」
香奈ちゃんが大きく上げた右手には、キラキラと輝く星型の葉を持った植物がいっぱい握られていた。
「そんな所にあったの!? 香奈ちゃん、偉い!」
「これ、お店で売れるみたいだし、多めに拾って帰ろう!」
真紬梨さんと須田さんが喜んで香奈ちゃんの方へ向かおうとした瞬間――
――ドドドドドッ!!
突然、地面が揺れるような大きな音が響きわたった。
「な、何!?」
栗田さんが急いで周りを見回す。
音はどうやら香奈ちゃんの後方にある森の方から聞こえてくるようだ。
「ちょ、待てって! ふざけんな! 俺を置いてくな!」
「うるせぇ、お前のせいだろうが!!」
騒がしい男達の声が聞こえたと思ったら、森の中から金髪とロン毛……ブラボーチームの2人が駆け出してきた。
その背後では、木々がバキバキと音を立てて倒れ、鳥や小動物たちが慌てて逃げ惑っている。
「――えっ?」
香奈ちゃんが後ろを振り返ると、その瞬間耳をつんざくような咆哮が森から響き渡った。
森から姿を現した現した、巨大な影――一見すると岩のように見える青黒い鱗の装甲を身にまとった巨大なトカゲ。その尻尾には棘の生えた鉄球のようなコブがあり、それが軽く触れただけで大木が次々と薙ぎ倒れていく。
いや、あれは――トカゲじゃない。あの大きさに迫力。おそらくあれが、リーリッヒさの警告していた“グランドドラゴン”だ!!
「――っ! なに突っ立ってんだ、どけっ!」
金髪がすれ違いざま、逃げ遅れてしまった香奈ちゃんを突き飛ばす。
「き、きゃぁ!」
驚いて転んでしまった香奈ちゃん。手に持っていた星屑草が空中に舞う。
「お、おいっ! さすがにらそれは無いだろ!」
隣にいたロン毛が立ち止まって香奈ちゃんに手を貸そうとするが――
「やめとけ、そんな場合じゃねぇって!! お前も見ただろ! おっさん、一撃で真っ二つに食いちぎられてたぞ!!」
金髪とは2人を気にも留めずそのまま走り去って行った。
「っち、悪いな。こういうゲームなんだから恨まないでくれよ」
ロン毛も金髪の後を追って走って行く。
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