第36話 バグってる?

「皆さん、怪我はないですか?」


 栗田さんが心配そうに全員を見回す。


「私は大丈夫よ」

「僕も、実際何もしてないからね」


 真紬梨さんと須田さんが答える。


「俺も大丈夫です」


 そう答えながら服の汚れを払っていると、ふと手にヒリヒリとした痛みを感じた。


「痛っ……」


 手を見ると、どうやら擦りむいたみたいだ。さっき転んだ時だろうか。


「叶途さん、血が出てますよ!」


 隣で見ていた香奈ちゃんが慌てて俺の手を取る。


「あ、大丈夫、大丈夫。ちょっと擦りむいただけだから」


『白き光よ、けがれを払い、癒やしの力で包み込め。慈しみの手を――ライトヒール』


 香奈ちゃんが目を閉じて呟いた途端、傷に添えられた両手から淡い光が発せられる。その光は心地よく、傷があった場所がじんわりと温まっていくような感覚に包まれた。そして、驚くことに掌の傷がみるみるうちに消えていく。


「こ、これって!?」


「“ライトヒール”。癒しの魔法みたいです」


「え、すご!?  どうやってるの?」


「えーと。その、詳しい事は……」


 香奈ちゃんに向かって、皆が次々と質問する。


「さっき買った魔導書に付随してる魔法みたいで。カードにあるスキルの説明を読んでやってみただけなんです」


「さっきの火の魔法も凄かったけど、これは現代医療を超えてますね」


 栗田さんが俺の手を取り、傷跡をなぞりながら真剣な顔で言う。そんな場面じゃないのは分かってるけど、綺麗なお姉さんに手を触られてちょっとドキドキする。


「と、とにかく、叶途さんの怪我が何ともなくて良かったです!」


 香奈ちゃんが焦ったように話題を変える。ヤベッ、もしかしてデレデレしてたのがバレたか!?


「えぇ。医療器具もろくに無い状況でこの力はかなり有益ですね」


「あ、そういえばスキルのページにいろいろ書いてあるから、皆も確認した方がいいわよ」


 真紬梨さんが自分のカードを指しながら提案する。


「確かに。このスキルというのはかなり重要みたいですからね」


 栗田さんと須田さんもカードを取り出し、それぞれ確認し始める。


「おっ、僕もスキルがあるんだね。『グレイトウォール』っていう重騎士専用スキルで、短時間だけ防御力が大幅に上がるんだって。あと『カウンターアタック』は、防御時に受けたダメージを攻撃力に転換して敵に返すスキルだね」


 須田さんは盾使いということもあってかスキルも防御に特化しているようだ。


「私のは『スピードスライス』という短剣用のスキルと、パッシブスキルの『フィジカルアップ(Lv.1)』で、体力が3%上昇するみたいですね。……パッシブって、どういう意味でしょうか?」


「パッシブスキルは、常に効果が発動してるタイプのスキルです。魔法みたいに特定のタイミングで使うんじゃなくて、持ってるだけで効果があるんですよ」


 あまりゲームに詳しくなさそうな栗田さんに説明してあげる。


「えっ、すごいお得じゃん! ねね、私の『商人の勘(Lv.1)』ってのもパッシブスキル? 初級アイテムの良し悪しを判別できるみたいなんだけど」


 真紬梨さんが自分のカードを俺に見せて聞いてくる。


「そうみたいですね。パッシブスキルのマークがありますから」


「へぇ、さっき買い物のときリーリッヒさんに”中々いい目利きだ”って言われたけど、これが理由だったのね。叶途くんのスキルはどんなの?」


「えっと、俺はですね……」


 自分のカードを操作してスキルの部分を見ると――


『ゲート:光のドアを作り出し、近くの街へ帰還が可能。※戦闘中や特定のイベント中は使用不可』


「え、すごっ! まさかワープできるってこと!?」


「これは便利だね! それにレアスキルって書いてあるよ! すごいじゃん!」


 真紬梨さんと須田さんが驚きながら俺のカードを覗き込み、肩を叩く。


「これは嬉しいですね。帰りは早く戻れそうです」


 栗田さんと香奈ちゃんもカードを覗き込んでくる。


「……あれ? この下、他にも何か書いてあります」


 香奈ちゃんが指差した所を見ると、確かにゲートの他にも何かスキルの説明が書かれているようだった。


『バ▷*ド■:管〈Γ権※により強▽+にロ〇/ン、%はロ◆Θウ&を行う。この際あ・*る^限を撤↓し#由に”#を移=でき¥』


「……何だこれ?」


「うゎ。バグってるね。昔ファミコンでよくこんなのになったよ。後で受付の人に見て貰った方が良いかもね」


 須田さんが俺からカードを借りるとブンブンと振ってみるが、表示は変わらない。


「――さて、それではそろそろ進みましょうか。それともこの辺りで少し休憩しますか?」


 栗田さんが皆んなを見渡して改めて声を掛ける。

 全員まだ大丈夫ということだったので、再び地図を頼りにグランディオーソ草原を目指して歩き始めた。

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