第22話 集まった招待客たち

 建物の前では既に何名かの人が集まっていた。

 案内されるがままその列の後ろに加わると「ここで暫くお待ちください」とだけ告げて、案内してくれたお兄さんは何処かへ行ってしまった。


 人数は全部で……十四、五人くらいだろうか。

 二、三十代と思われる若い男性の姿が目立つ。

 次いで多そうなのが四,五十代くらいの男性。後は若い女性が数名といったところだ。


 服装に指定は無かったので皆それぞれカジュアルで動きやすそうな服を着てきているが、中にはかなり短いスカートに踵の高いサンダルのお姉さんもいる。これから異世界へ冒険に行くんだけど、大丈夫だろうか?


 いや、それよりも明らかに浮いてるのは……俺の方か?

 どう見ても――全員俺より年上だぞ。

 もしかしたら十代前半は俺だけかもしれない。


「あれぇ? 何で子供が居んの?」


 列の最後尾に立った達に気付き、金髪で日に焼けた、ぱっと見一番絡みたくないウェイ系の男がよりによって絡んできた。


「子供じゃない。……こう見えても高校生だけど」


 相手にしない方が良いと分かりつつ、思わずムキになって言い返してしまう。


「高校生は子供だろっ!」


 何がおかしいのか、大声を出して笑う金髪の男。


「止めとけよ。気難しいお年頃だ。俺たちもそんな頃あっただろ」


 金髪の男の肩をポンと叩く、別のロン毛黒髪の男。

 こちらも分かりやすくパリピといった様子だ。


「えぇ? そうだったか? わりーわりー。怒ったならごめんな」


 金髪の男はポンポンと俺の肩を叩くと、黒髪と二人連れ立って列に戻って行った。

 その様子を見ていた他の人たちは、皆一様に"我関せず"といった様子でだんまりを決め込んでいる。

 まぁ、ここに居る全員が恐らくつい数分前に顔を合わせた他人だ。知りもしない他人のために無駄なリスクを冒したくはないだろう。


 いつからそうなっているか知らないけれど、既にいくつかの小さなグループが出来ており、見た目が似たような者同士数人で集まって会釈を交わしたり、取ってつけたような笑顔で談笑したりとそれぞれに時間を潰している。


 何となく居づらい空気を感じつつそんな人々の後ろ姿を遠巻きに眺めていると――



「――あの、さんですか?」



 不意に背後から声を掛けられる。

 一瞬何の事かと思ったけれど、"カナブン"というのは俺がSNSで使っているアカウント名だ。

 驚いて振り返ると――そこには見知らぬ少女が立っていた。


 年は見るからに俺より下、恐らく中学生だろうか。

 肩くらいの黒髪を後ろで編み込み一つに纏めたお嬢様のように清楚な髪型。

 日焼け何かしたこと無いんじゃないかってくらいに真っ白な肌に、少しブラウンがかった瞳。

 特にメイクとかしてる訳じゃなさそうなのに、天然の美少女と呼べる程に可愛いと思える女の子がいつの間にか背後に立っていた。

 その隣には黒ぶち眼鏡をかけたスーツ姿のお姉さんがじっとこっちを見ながら立っている。


「あ、あの……あ、もし違ってたならごめんなさい!」


 何も答えないでいる俺に怯えたのか、手をワタワタとさせて一方後ずさる少女。


「あ、いや、カナブンは俺です」


 その慌てっぷりを見て、こっちも慌てて返事をする。


「あ、やっぱり!」


 そういって隣に立つお姉さんを見ると、お姉さんも少女に向かって黙って頷き返した。


「あ、えと……君は?」


「あ、ごめんなさい! 私です。 DMを頂いた……」


「――あぁ!」


 そう。彼女こそが、チケット当選のときにSNSでやり取りした相手だ。


 先日、俺が源田さんに電話でお願いした内容は『参加希望を断られた未成年の中の、とある一人を参加させてあげて欲しい』という物だった。


 最初は渋られたけれど『俺も未成年ですけど、じゃあ何で俺だけOKなんですか? そんなに危ないならやっぱり行くの辞めようかな……』と少し屁理屈をこねたらすんなり通った。ごめんなさい、源田さん。


 自分が話を通した時点で対象の条件に当てはまる人が一人しか居なかったため、すぐに特定することができたそうだ。


 それにしても……


「あの、ネコマルさんは本当に良かったんですか? いくら政府の人が一緒だからって完全に安全とはいえないみたいだし……」


 自分から頼んでおいて何だけれど、こんな可憐な少女が相手だとは思ってもみなかったのでさすがに不安になってくる。

 俺の言葉に反応したように、隣のお姉さんも口を開いた。


「その件に関しては、私どもの方からも重々ご説明したのですが。あくまでも参加は任意なのですが、どうしても参加されたいとのことで。……ほら、遠乃江さんもこう仰ってますし、本当に行かれるのですか?」


 お姉さんが少し難しい顔で少女を見る。


「ま、待ってくださいお二人とも! 今更帰れとか言わないでくださいよ! 私どうしても参加したくて――」


「でも、さすがにちょっと危なくないか……」


 俺が彼女に向かって口を開いたその時――


『皆さん! こちらに注目をお願いします!』


 自衛隊員と思しき迷彩服の人たちが一斉に整列したかと思うと、その前にスーツ姿の恰幅の良い男性が一人出てきて参加者達を見渡した。

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