第23話 例の当選者

「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。私は国防省の源田と申します。本日の護衛任務の総指揮を取らせていただきます。本日は、皆さんと共に三名の自衛隊員が異世界へ行きますので、ご紹介させてください」


 源田……この人が電話越しに話していた相手だったのか。

 年齢からすると今は管理職にあるんだろうけれど、それでも鍛えられていることがわかる筋骨隆々の体格。ビシッとオールバックを決めた強面のおじさんだが……俺はこの人相手に電話で屁理屈をこねてたんだな。マジか……


 源田さんが目で合図を送ると、三人の自衛隊員が一歩前に出た。


「陸軍三尉の黒田です。本日は私を含め三人の隊員が同行して皆さんを先導いたします。どうぞ宜しくお願いします」


 挨拶したのは、40代くらいの男性が一人と、若い男女の隊員がそれぞれ一人ずつ。

 短い自己紹介の後、参加者たちが三つの班に分けられて異世界へ向かうことが説明された。


 ◇◇◇


「それでは、呼ばれた方から順に前に出てください」


 黒田さんが手に持った名簿から名前を読み上げる。呼ばれた人が順に前へと出て並ぶが……これ、どう見ても軍隊の訓練だ。テーマパークに遊びに行く雰囲気じゃない。


「続いて、遠乃江さん、比奈野ひなのさん」


「あ、はい」

「はい!」


 俺が答えると同時に、隣にいたネコマルさんも手を挙げる。


「……遠乃江さん?」


 ネコマルさんが俺を見て首を傾げた。


「あぁ、本名」


「あ、ごめんなさい。珍しい名前だと思って」


「よく言われる。呼びにくかったら叶途でいいよ」


「私は比奈野 佳奈かなです。何だか私たち、名前似てますね」


 少し恥ずかしそうに笑う比奈野さん。控えめにはにかむ笑顔が愛くるしく、つい俺も照れ笑いしてしまう。こんなに可愛ければ、きっと学校で男子から人気があるんだろうな。


 名前を呼ばれたのはどうやら俺たちが最後だったようで、参加者全員が三つのチームに分けられた。


 俺と比奈野さんは揃ってアルファチーム。

 チームメンバーは他に、休日のお父さんみたいな中年の男性と、ヒールを履いた派手めの20代半ばの女性だ。


「あら、かわいいチームメイトね。よろしくね。二人とも学生さん?」

「いゃー、何だか若い子達の中、僕だけおじさんで申し訳ないな」


 二人が交互に俺と比奈野さんに話しかけてくれる。おじさんはともかく、一見キツそうに見えるお姉さんも話してみると物腰が柔らかく、いい人だった。


 そして、俺たち四人のほかに迷彩服を着た若い女性が一人。


「皆さん、はじめまして! アルファチームの隊長を務めます、栗田です。本日は全力で皆さんを守りますので、よろしくお願いします」


 恰好こそ他の自衛隊員と同じだけれど、軍人としての堅苦しさはなく、親しみやすい印象のお姉さんだ。


「へぇ、女性の隊員さんだ! 凄いなぁ、ウチと歳もそう変わらなそうなのに」


「今年で24歳です。現場経験はまだ少ないですが、近接格闘と銃火器の扱いは得意ですから、安心してくださいね!」


 隊長さんはそう言って、笑いながら俺たちにファイティングポーズを見せてくれる。


「……ちょっと、体力的についていけるか本当に心配になってきた」


 苦笑いするおじさんに対して、「大丈夫ですよ。みんなで頑張りましょう!」と隊長さんが笑顔で励ますとみんなの緊張が少し和らいだ気がした。


 そうだよな。自衛隊や政府の関係者が出てきて緊張してたけど、俺たちがこれから向かうのは戦地じゃなくて、異世界の冒険。――楽しまないと損だ。



 その後、いつの間にか俺の後ろに隠れていた比奈野さんも自己紹介をして、アルファチームの顔合わせが完了した。


 そんな感じに穏やかなアルファチームとは裏腹に……


「――えー! 班行動とかめんどくせー! 大丈夫、うちは現地解散にしようぜ!」


「そうだな。全員大人なんだから、自己責任でいいだろ」


 賑やかなのは隣の“ブラボーチーム”だ。

 先ほどの金髪とロン毛に、他に若い男性2人を含む4人編成のようだ。


「ですから、現地を確認し安全と判断できれば、ある程度の自由行動は許可します。申し訳ないですが、最初のうちは我慢してください」


 ガタイの良い迷彩服の男性が、少しムッとした顔で二人をなだめている。


(なるほど、ブラボーチームは体力のある若い男性たちで固めたのか。確かに、あそこに女性や子供が混じってたら文句が出るかもしれないな……)



 さらに、もう一つの“チャーリーチーム”は、運動が苦手そうな華奢な男性、サラリーマン風の男性、そして中年の女性が一人。隊長は若い男性が務める四人編成らしい。


 以上、3チームから成る総勢十四人がプレオープンの参加者だ。

 配られたチケット100枚に対してこの人数……。比奈野さんのように選考から漏れた人もいるとはいえ、それにしても参加者はかなり少ないな。

 未知の世界がどれだけ安全かも分からないし、自ら進んで行こうという人はそれほど多くないのかもしれない。


「それでは皆さん、これからキュリオシティ内部へと向かって頂きます。皆さんのご健闘をお祈りします!」


 源田さんの挨拶でグリーティングは締めくくられ、各班は建物の内部へと進んでいった。

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