第19話 封筒の中身

(さて……。どうしたものか)


 自室に戻り、机の上に置いた招待状を見つめる。


 表面に金色の文字で“WELCOME CURIOSITY”と箔押しされた真っ白な封筒。


(……ただ眺めててもしかたないな)


 とりあえず封筒を開けてみると、中には二つ折りにされた紙と透明なカードが一枚入っていた。

 紙の方は普通の手紙のようで、挨拶文やプレオープンの日取り、その他案内について書かれている。


 手紙を一端机に置き、今度はカードを取り出してみる。


 大きさは丁度スマホ程だが、薄さはノートに使う下敷きと同じくらいしかない。

 素材はプラスチックというよりガラスに近いだろうか。折り曲げてみても簡単には曲がらない程に固いが、角が丁寧に丸めてあり手を切ったりする心配は無さそうだ。


 その透明な板に文字が書き込まれている。


“WELCOME CURIOSITY”


 封筒と同じ文言。


(これ……表面にプリントされてるのかと思ったら、透明な基板の中に文字が埋め込まれてるんだな。中々手が込んでるな)


 そして、タイトルから少し空白を開けてその下には……


 “0000000000”


 ゼロが10個。


(何だろう? シリアルナンバー……? だとしたら、誤植か? コレ、大丈夫なのかよ……)


 裏面も確認してみるが、表ら見えていた文字が透けて反転して見えるだけだ。

 それ以外は特に変わったところは無い。


(……100枚しか無いって言ってたけど、他の当選者にももう届いてるのか? ネットに何か情報は……)


 世の中の反応が気になって、一度スマホでSNSの状況を見てみる事にした。


 定刻の8時からまだ30分程しか経ってないのに、ネットにはチケットに関する書き込みが溢れていた。


『当選しました!』

『さっき気づいたらポストに入ってた!』


 そんなコメントに混ざり、中には写真が添えられているものもある。

 その多くが手の込んだ装飾のされたのチケットだが……俺の手元にあるのが本物だとすると、多分これらは偽物だ。


(そこまでして注目されたいのか……?)


 今のところ俺と同じチケットの写真を投稿している人は一人も見当たらない。


 そろそろバイトにも行かなきゃいけないし、チケットの事は一旦置いておこう。

 帰ってきたらもう少しネットの様子を見て、明日にでも政府の窓口に電話してみるか……。



 ◇◇◇◇



 バイトから帰って来てSNSを確認するが、相変わらず偽物だと思われる投稿ばかり。

 そうまでして目立ちたいのか……? とは思うけれど、まぁ他人の趣味をとやかく言う筋合いはないだろう。


 画面をスライドし次々と流し読みしていると……ある投稿写真を見て思わず指が止まった。

 写真映っているのは『WELCOME CURIOSITY』の文字だけが記された例の透明なカード。IDと思われる数字の部分は隠されている。投稿者のコメントは無く、ただ写真だけがアップされている状態だ。


 投稿に対していくつかコメントがついているが、

『わざわざ手が込んでますね』

『そんな物、何日も前から準備してたんですか? 暇人……』

 など概ね冷めた対応ばかり。まぁ、普通はそう思うだろうな。

 それらのコメントに対しても、投稿者からの反応は無い。


 手元にあるカードをスマホと並べてよく見比べてみるが、文字の書体や大きさなどはピッタリ一致してるように見える。


(いや、これどう見ても本物だろ)


 投稿をしたアカウントを調べてみると、幸いDM(ダイレクトメッセージ)が送れる設定になっていた。

 思わず後先考えずにメッセージを送ってしまう。


『突然のDMすいません。招待状、本物ですよね。うちにも届きました』


 投稿されていた写真を真似て、自分のカードのIDを隠し、同じような写真を撮って添付してみる。


(……まぁ、そう簡単に返事なんか来ないよな)


 そう思ったけれど、意外とすぐに返信があった。

 ただ――反応は思った以上にシンプルなものだった。


『そうですか。おめでとうございます』


 一言それだけ。返信に困ったが、とりあえず思いついた内容を返してみる。


『政府の窓口には電話したんですか?』


 また直ぐに返信が来た。


『はい。したのですが、未成年者はプレオープンには参加出来ないそうです。CURIOSITYの意向ではなく、日本政府側でそう決めたとかで。チケットはそのまま保管してくださいと言われました』


 未成年……。俺意外にも未成年の当選者が居た事にまず驚いた。特に根拠がある訳じゃないけれど、何となく大人が優先して選ばれると無意識のうちに思っていたようだ。


『そうなんですか。実は自分も未成年なんです』


『そうなんですね。お互い残念でしたね』


 残念……? ということは、この人はプレオープンに参加するつもりで電話したという事か。


『“ネコマル”さんは行ってみたいんですか? プレオープン』


『私はどっちでも。ただ、お母さんがどうしても行かせたかったみたいで、参加できないって聞いて残念そうにしてたから』


 ……親が? 普通、未成年の子供をあんな得体の知れない場所に行かせたがるだろうか? まぁ、それも人それぞれか。他人の家の事情に口を挟む物じゃないな。


 何にせよ、プレオープンに行かないんじゃこれ以上関わる事も無いだろう。あんまりしつこく絡んで出会い目的だと思われても恥ずかしいので、この辺りで会話を切り上げることにした。


『そうですか。僕も窓口に連絡してみます。返信ありがとうございました』


『いえ、こちらこそ。それでは』


 別に文句がある訳でもないけれど、最後もあっさりとした終わり方だった。結局何が言いたかったのか自分でも分からなくなってくる。

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