第2話 まるで勇者のような幼馴染

「ねぇ、カナト! さっきから何でそんなに怒ってるのよ!?」


「……別に、怒ってない」


 放課後。

 学校から少し離れたコンビニの駐車場でリナリアと一緒にが来るのを待つ。


「それにしても……このコーラって飲み物、ホント美味しいわよね! こんなに甘くて、泡がすごく不思議だわ」


 俺の機嫌の悪さはもうどうでも良いようで、リナリアはさっきコンビニで買った冷えたコーラを喜びながら飲んでいる。ペットボトルから滴る水滴と背後に広がる青空の爽やかさで、俺の怒りも次第に薄れていった。


「あんまり飲むと太るぞ」


「太っ……!? それって――胸も大きくなる!?」


「知るかっ!」


 エルフという種族の宿命なのか。完全無欠と思われる金髪美女の唯一といえる弱点が、胸の辺りにある。いや、無いのだが。


 そんな事よりも……。


『なぁ、あの子めっちゃ可愛くね!?』

『うおっ!? マジで!? 外国人?』


 コンビニに来た客が例外なくリナリアの方を二度見しながら中へ入っていく。

 こんな田舎じゃ金髪の外国人自体珍しいのに、それが絶世の美少女ときたら嫌が応にも目立ってしまう。


(マズイな。場所を変えるか……)


 そう思って寄りかかっていた車止めから腰を上げたところで――



「おーい、叶途かなとお待たせー――って、!? 何でこんな所に!? ってか、何でうちの制服着てんの!?」


 颯爽と現れたのは、芸能人もビックリするであろうレベルの超イケメン。

 知性と穏やかさを兼ね備えた眼差しは、パッチリとした二重瞼がその印象を一層強めている。清潔感あふれる短めの黒髪と高い鼻梁、整った眉毛が端正な顔立ちを際立たせ、キチンと整えられた制服の襟元が彼の優等生ぶりを静かに物語る。

 戦隊物でいうならセンターのレッド、RPGなら間違いなく勇者。まるで彼を中心に世界が動いているんじゃないかというくらいの圧倒的な存在感。


 無キャの俺とは真逆で太陽のように光り輝く彼こそが――幼馴染のかずだ。


「今日から俺のクラスに転校してきたんだとさ」


「ふふふ、よろしくね」


 子猫のような上目遣いで和を覗き込むリナリア。普通の男だったらこの一撃で間違いなく轟沈するだろう。


「て、転校!? なんだってまたそんな急な事に!? まぁ、細かい話は道すがら聞くとして……。とりあえず、同じ学校だってんなら俺も何かと力になるから、困った事があったら何でも聞いてくれよ」


 このイケメンはサラッと普通に返しやがる。


「ありがと。でも、私には騎士ナイト様がいるから大丈夫!」


 あざとくも愛らしい笑顔でギュッと俺の腕を掴むリナリア。普通の男だったら……以下略。


「そうだったな!」


 ニンマリとこっちを覗き込んでくる和の笑顔に、迷惑そうにため息を一つ返す。

 そんな俺を見て和とリナリアは可笑しそうに笑い合うのだった。

 イケメンと美女がウフフアハハとやってる様はあたかもテレビドラマのワンシーンで、ただの一般人である俺は完全に場違いだ。

 たまたまフレームに映り込んだだけの一般人。遠巻きに見ているコンビニ客たちの視線には俺だけがただの背景として映っているような気がして、さすがに少し傷つく。



「――ねぇ、カズ。ナナミは?」


「あぁ、あいつは部活だよ」


「ブカツ?」


 リナリアが口に人差し指を当ててキョトンと首を傾げてこっちを見た。


「授業以外で、任意でスポーツや文化活動に取り込む課外活動の事。言わば居残り。サービス残業だよ」


「ざ、残業? サービス?」


 余計に混乱して右に、左にと頭を傾げるリナリア。


「オイッ! 姫様に変な知識を入れ込むんじゃねぇよ。てかお前も部活くらい入れよ、この省エネ人間!」


 和にスパンと肩を叩かれる。


「痛ってえな、俺は無駄な労働はしない主義なの。お前の方こそサボっていいのかよ、バスケ部キャプテン」


 思わず言い返した後に……少し後悔した。


「……いいよ。俺は――居ても居なくても変わんないしな」


 そういって自分の腕を指差す和。

 半袖から覗くその右膝には、未だにはっきりとした大きな手術痕が残っている。


「……悪い」


「いや、気にすんなって!」


 少し気まずい沈黙が訪れる。


「ねぇ、早く行こうよ! ナナミが来れないのは残念だけど、それなら今日は三人で行こう“キュリオシティ”!」


 俺達の気まずい空気を察してか、それとも天然なのか。リナリアが待ちきれないといった様子で足をジタバタさせて間に割り込んで来た。


「……そうだな! 今日はあんま時間無いけど、少しでも“姫様誘拐事件”の情報掴んどかねぇと」


 和がカバンを担ぎ直す。


「……だなっ! とりあえず俺んちに行くか!」


 歩き出した俺と和の後ろにリナリアが続き、学校の事やこの辺りの遊ぶ場所について話しながら俺の家に向かった。

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