Column6 「温かい」と「暖かい」の使い分け③

 そろそろ「あたたかい」の話に飽きて来たかもしれませんが(笑)、もう少しお付き合いできる方は一緒に見ていきましょう。

 今回取り上げるのは次の例文です。


 ――ふところがあたたかい。


 この場合、「温かい」と「暖かい」のどちらを使うと良いでしょうか。Column5の対義語の考え方からすると「懐が寒い」と言えますから、「懐が暖かい」とするのがいいでしょう。

 しかし、「懐が温かい」と表記している辞書もありましたので、下記にそれぞれまとめてみました。


●「懐が暖かい」と記載している辞書

『新明解国語辞典 第八版』『三省堂国語辞典 第八版』『旺文社国語辞典 第十一版』『デジタル大辞泉』『大辞林4.0』『広辞苑 第六版』『精選版 日本国語大辞典』『旺文社 標準国語辞典 第八版』


●「懐が温かい」と記載している辞書

『明鏡国語辞典 第三版』『新選国語辞典 第十版』『学研現代新国語辞典 改訂 第六版』


●両方「可」と捉えられる書き方をしている辞書

『岩波国語辞典 第八版』


 このうち「懐が温かい」と記載があったうち『明鏡国語辞典 第三版』には、「『懐が暖かい』とも書くが、『温かい』が標準的」と書いてありました。

 合計十三冊の辞書を引きましたが、そのうち八冊が「懐が暖かい」と記載しているにもかかわらずです。……中々強気ですね(笑)


 何故『明鏡国語辞典 第三版』がこのように考えるのか、具体的な記載はありませんでしたが、推測するに「懐があたたかい」は「気持ちのあたたかさ」を示すからではないかなと思います。


「懐があたたかい」というのは、「所持金がたくさんある」ということです。


 お金を持っていても、使い捨てカイロのように体をあたためることはできませんが、心はあたたかくなりますよね。Column4で取り上げたとき、気持ちなどの「あたたかさ」を表すときは「温かい」を使うのが一般的でした。


 つまり、「所持金がたくさんある」→「心があたたまる(豊かな気分になる)」→「懐が温かい」という表現に繋がるのかなと思います。

 ……が、これは私の勝手な想像なので、真偽は定かではありません。そのため、さら~っと聞き流してくださいませ(笑)


 ちなみに『漢字解き明かし辞典』では、次のような解説がされていました。


**********

(中略)「ストーブで体を温める」のように、体に対しては《温》を用いることになる。ちなみに、「給料が入って懐が温かい」も、比喩であるが、文字通りには体を対象にしているので、《温》を書く。

**********


 ……とのことですが、いかがでしょうか。納得できましたでしょうか。


 辞書の数からすると、「懐が暖かい」が圧倒的に多いのですが、「懐が温かい」というのも上記の理由で使うことができるので、この辺りは使う方の考え次第かなと思います。


 以上、「あたたかい」のお話でした。



◇掲載場所◇

『NIHONGO ‐Ⅱ‐』2022年―5月―Column1の補足として加筆

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