Column2 「喧々諤々(けんけんがくがく)」は間違い?

 今回は、「喧々諤々けんけんがくがく」という言葉について取り上げようと思います。


     ☆


「喧々諤々」という言葉。皆さんは聞いたり、使ったりしたことはあるでしょうか。


「さわがしく、えんりょなく議論すること」(『三省堂国語辞典 第八版』より引用)という意味で使われることがあるかと思いますが、この言葉は、「侃々諤々かんかんがくがく」と「喧々囂々けんけんごうごう」が混同して生まれた四字熟語と言われています。


侃々諤々かんかんがくがく」とは、「互いに正しいと思うことを堂々と主張し、大いに議論すること」(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)。


喧々囂々けんけんごうごう」とは、「多くの人が口やかましく騒ぎ立てること」(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)。


 つまり、「喧々諤々」というのは、「侃々諤々」の「大いに議論すること」と「喧々諤々」の「口やかましく騒ぎ立てる」ということが合わさった表現であることが分かると思います。


 ですが「二つの四字熟語が合わさってできた」という経緯から、「喧々諤々」を認めていない辞書もあるのです。例えば、『明鏡国語辞典 第三版』では次のように書かれています。


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喧喧囂囂ケンケンゴウゴウ】『明鏡国語辞典 第三版』

(注意)「喧々諤々ケンケンガクガク」は、「喧々囂々」と「侃々諤々」と混同した語。口やかましく議論する意で使うのは誤り。

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 また、『新選国語辞典 第十版』でも次のように記してありました。


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【喧喧囂囂】『新選国語辞典 第十版』

[参考]「けんけんがくがく」は「喧喧囂囂」と「侃侃諤諤かんかんがくがく」の誤った結合。

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 では、「喧々諤々」という四字熟語は誤りなのでしょうか。


 私が持っている辞書を調べた限り、はっきりと誤りとしていたのは『明鏡国語辞典 第三版』『新選国語辞典 第十版』のみで、それ以外は「誤りから生まれた」や「喧々囂々と侃々諤々の混同によって生まれた」という説明のみで、特別誤りとはしていないようでした。


喧々諤々けんけんがくがく」の由来は、どの辞書を引いても「喧々囂々と侃々諤々の混同」と書いてある通り、二つの四字熟語が混じってできたものです。その始まりは、もしかすると言い間違いによって使われたのかもしれませんが、「さわがしく、えんりょなく議論すること」という意味は、「喧々囂々」にも「侃々諤々」にもありません。


 元の意味を尊重するのであれば、「喧々囂々」を使わないというスタンスをとっても良いかと思います。ですが、「喧々囂々」と「侃々諤々」では表現できないところに手が届くことを考えると、今後この四字熟語は、その存在を確立していくかもしれませんね。


 皆さんは、「喧々囂々けんけんがくがく」を使うでしょうか?



◇掲載場所◇

『NIHONGO』2021年―7月―Episode9

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