あ行
「あ」
Column1 「愛想を振りまく」は間違い?
今回は「愛想を振りまく」について取り上げようと思います。
☆
「愛想を振りまく」は、「『愛嬌を振りまく』と混同した誤用表現である」とよく言われます。
「『愛嬌』は人から
しかし、本当にそうなのでしょうか。
辞書で「愛想」を調べてみると、次のように書かれています。
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【愛想】『明鏡国語辞典 第三版』
❶人に対する応対のしかた。特に、人に好感を与える応対のしかた。
❷人に対する親しみの気持ち。
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❶の語釈だけを読むと、「『愛想』は具体的な動作を示す言葉だから誤りである」の主張に納得できそうですが、❷を見てみると「愛想」が持っている意味が動作だけでないことが分かります。
となると、「『愛嬌』は人から醸し出される雰囲気を指すが、『愛想』は具体的な動作を示す言葉だから誤りである」という説明には当てはまらない気がしてきます。
もう一冊、『新明解国語辞典 第八版』の「愛想」の語釈も見てみましょう。
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【愛想】『新明解国語辞典 第八版』
㊀客に心からサービスをしようとする、応対の仕方や顔つき。
㊁好意を以て、相手になってやる気持ち。
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厳密には『明鏡国語辞典 第三版』と意味が違いますが、意味の傾向から見ると㊁は、❷と同じように気持ちに焦点を当てた語釈になっています。
となると、やはり「愛想を振りまく」ともいえるのではないでしょうか。
実は「愛想を振りまく」について、三省堂国語辞典の辞書編纂者である、飯間浩明氏の著書『小説の言葉尻をとらえてみた』には、次のように書かれています。
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意味的に、「愛嬌はふりまけるが、愛想はふりまけない」ということもありません。愛嬌(可愛らしさ)も愛想(人に感じよく見せる表情や態度)も、その人に備わったものである。それを周りに示すことを、比喩として「振りまく」と言っています。
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つまり「愛嬌」(=かわいらしさ)も「愛想」(=親しみや好意的な態度)も、「相手や周囲に示す」という意味で「振りまく」という言い方ができるということですね。
また、『三省堂国語辞典 第八版』を引いてみると、「愛嬌を振りまく」も「愛想を振りまく」も「戦前から使われている表現」とのことで、使われてきた歴史もあることが分かります。
これらのことを踏まえると、「愛想を振りまく」を「誤りである」とは断言できず、もし誰かが使っていても否定できない表現かなと思います。
◇掲載場所◇
『ことば』2023年―3月―Column7
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