Column2 「足を洗う」の意味
今回は「足を洗う」について取り上げようと思います。
☆
――色々な事情があって美容師から足を洗った。
ある書籍に、上記のような一文がありました(原文とは違います)。
しかし、「足を洗う」とは「好ましくない仲間や仕事から離れて、まともな生活をする」(『明鏡国語辞典 第三版』より)という意味です。
そのため、単に「美容師をやめる」とか「音楽の世界からはなれる」という意味で、「美容師から足を洗う」「音楽の世界から足を洗う」とするのは誤った使い方と考えられています。
ですが『三省堂国語辞典 第八版』を引いてみると、次のような記載がありました。
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【足を洗う】『三省堂国語辞典 第八版』
①よくない仕事をきっぱりと やめる。
②現在の職業をやめ(て出直しす)る。
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つまり『三省堂国語辞典 第八版』では、「美容師から足を洗った」=「美容師をやめた」という意味でも使ってよいとしている、ということ。
そのほかにも『岩波国語辞典 第八版』『広辞苑 第六版』『大辞泉』『大辞林』といった、主に中型の辞書では「現在の職業をやめ(て出直しす)る」という意味で使うことを認めているようでした。
ちなみに『広辞苑 第二版 補訂版』では「賤しい勤めをやめて堅気になる。悪い所業をやめてまじめになる。また単に或る職業をやめることにもいう」と書いてあり、これは『広辞苑 第六版』と語釈が同じです。
『広辞苑 第二版 補訂版』が出版されたのは、昭和五十一年十一月ですから、この時期にはすでに「単に或る職業をやめること」にも用いられていたことが分かります。
一方で、『明鏡国語辞典 第三版』『新明解国語辞典 第八版』『新選国語辞典 第十版』『旺文社国語辞典 第十一版』『現代新国語辞典 改訂 第六版』は「単に或る職業をやめること」に使うのは認めていないようでした。
辞書の数からすると、大体半々くらいで意見が分かれているようなので、この言葉の使い方は書き手の判断にゆだねられるのかなと思います。
◇掲載場所◇
『ことば』2023年―10月―Column8
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