「き」

Column1 「聞く」「聴く」「訊く」の使い分け

 今回は、音に関する「きく」という漢字の使い分けについて、取り上げようと思います。


     ☆


 音に関する「きく」というと、次の三つが出てくるかと思います。


「聞く」

「聴く」

「訊く」


 これらは使える場面がそれぞれ違うため、使い分けをする際には気を付けることがあります。それが何なのか、早速見てまいりましょう。


 まずは「聞く」。

 三つの中で、最もよく使われる漢字です。

「聞く」は万能選手なので、「耳できく」ものであればどういう場面でも使うことができます。


 例えば、「音楽を聞く」「人の話を聞く」というのはもちろん、「今日のおやつを母に聞く」というのも「聞く」を使うことができます。質問をするときに「聞く」を使うのは、これも「耳できく」ことに繋がるからです。

 よって書き分けに自信がないときは、この漢字を使うと良いかと思います。


 次に「聴く」はどうでしょうか。

 この漢字は、元々「聽」と書きました。(ちなみに「聴」が「ちょう」と音読みするのは、「聽」の「みみへん」の下にある「壬」が「ちょう」と読むからです)


「聽」を分解して考えてみると、左側は「みみへん」、右側は「得る」から成り立っており、それには「真っ直ぐな心」という意味も含まれているそうです。そこから何となく、「しっかり耳を傾ける」という意味が想像できると思います。


 では具体的に「聞く」とどのように違うのか、下記に辞書で調べたものを引用いたします。


**********

【聞・聴】『全訳 漢字海 第四版』

 ともに耳できく意味であるが、「聞」は耳にきこえてくる非主体的な結果をいい、「聴」はきこうとする主体的な意志による。

**********


 ここから、「意識してきく」ことや「心をそちらに向けてきく」という場合は、「聴く」を用いると良いことが分かるかと思います。


 例えば「音楽を聴く」と書けば、「意識して音楽をきく」という風に読者には伝わります。また「彼女の話を聴く」とすると、「聞き手が真剣に話をきいている」のが想像できることでしょう。

 そのためこの点を意識して「聞く」と「聴く」を使い分けることができれば、「聴く」の効果が強く発揮することができます。


 最後に「訊く」。これはどうでしょうか。

 漢字辞典で調べてみると、この漢字には「問いただす」という意味があることが分かります。

「聞く」には、耳から情報を得る「きく」と、相手に質問をする「きく」があったと思いますが、「訊く」を使うときは後者の場面で、かつ、相手に厳しく問う場面で使うのが、漢字の意味としては適切です。(『漢字の使い分け解き明かし辞典』参照)


 ですが、国語辞典では少々見解が違うようです。

 単に「相手に質問する」という意味で「訊く」を使うとしている辞書もあるのです。下記に調べた内容を整理してみようと思います。


❶「相手に質問する」という意味で「訊く」が使えるとしている辞書

『新明解国語辞典 第八版』『デジタル大辞泉』『大辞林4.0』『新選国語辞典 第十版』『三省堂現代新国語辞典 第六版』『旺文社国語辞典 第十一版』『学研現代新国語辞典 改訂第六版』


❷「尋問(訊問じんもん)する」という意味で「訊く」が使えるとしている辞書

『明鏡国語辞典 第三版』


❸どちらとも取れない辞書(*1)

『三省堂国語辞典 第八版』


 調べた限り、このような分類ができそうです。


 ❶に分類された辞書が多いことを考えると、「相手に尋ねる」=「訊く」として使うのも問題なさそうです。実際、このようにして使っている作品も多いです。


 そのため「相手に尋ねる」に「訊く」を当てはめるか否かは、作者さんの判断にゆだねられるのかなと思います。


 以上「聞く」「聴く」「訊く」の使い分けのお話でした。


◇掲載場所◇

『NIHONGO ‐Ⅱ‐』2022年―6月―Column1


【補足】

*1

『三省堂国語辞典 第八版』が「どちらとも取れない辞書」としたのは、例文が「犯行の動機を訊く」だったからです。もし「道を訊く」が挙げられていれば、❶に分類できたのですが、状況が「尋問」とも捉えられそうだったので、えて入れませんでした。

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