Column4 「温かい」と「暖かい」の使い分け①

 今回は「あたたかい」について取り上げようと思います。(3話まで続きます)


     ☆


「あたたかい」は、「温かい」と「暖かい」という二つの書き方ができますよね。


 そして大抵は「温かい」を「料理や水などの物が、程よい高い温度に保たれていること」に対して使い、「暖かい」を「気温や身の回りが、程よい高い温度に保たれていること」に使うと思います。


 具体的な例を挙げると、次のようになるのではないでしょうか。


★「温かい」の場合

 ・温かい料理。

 ・カップに入ったお茶は、まだ温かい。


★「暖かい」の場合。

 ・暖かい風が吹く。

 ・暖かな国。


 ここまではきっと、皆さんが当たり前にしている使い分けかと思います。

 では、次の例文の場合はどうでしょうか。


 ――心がようなお手紙をありがとうございます。


 気持ちや心の「あたたかさ」を表現していますね。

 どちらが当てはまるのか答えを言ってしまうと、この場合は「温」という漢字を使うのがです。


 それは「温和おんわ」「温厚おんこう」といった、「性格のあたたかさを表わす熟語があるから」と言われています。

 しかし、実際は辞書ごとに見解が違うのです。下記に調べた辞書について分類したものを記載してみました。


●気持ちや心の「あたたかさ」を「温」と使うと記した辞書

『明鏡国語辞典 第三版』『三省堂国語辞典 第八版』『新選国語辞典 第十版』『デジタル大辞泉』『学研現代新国語辞典 改訂 第六版』『三省堂現代新国語辞典 第六版』『旺文社 標準国語辞典 第八版』


●気持ちや心の「あたたかさ」を「暖」と使うと記した辞書

『新明解国語辞典 第八版』(←「『温かい』とも書く」とは書いてありますが、見出しは「暖かい」でした)


●気持ちや心の「あたたかさ」を「温」と「暖」のどちらも使うと記した辞書

『旺文社国語辞典 第十一版』


●あえて書き分けを記載していない辞書

『精選版 日本国語大辞典』『大辞林4.0』『岩波国語辞典 第八版』


 こうして並べてみると、辞書によって違うことがよく分かりますね。

 とはいえ、多数決を取ると「温」を使うとする辞書が多いので、やはりこれが一般的なのでしょう。


 しかし何故、「温」を使うのが良いのでしょうか。『旺文社国語辞典 第十一版』には次のようなことが書かれています。


++++++++++

「温かい」は、「温かい料理」などのように、それに触れて熱すぎない程度の、ほどよい温度である意を表す。また、転じて「心温かい人」のように、人の性質や雰囲気などのやわらいでいるさま、穏やかなさまなど、そこにいて快いことをいうときに使われる。

++++++++++


 という説明なのですが、ご納得いただけるでしょうか……?


 これを読んだ方の中には、もしかすると「心の『あたたかさ』は、料理や水などの物と違って触ることができないのですから、『熱すぎない程度の、ほどよい温度である意を表す』が転じて、『心温かい人』などの人の性質などを表すことに使われるとはいえないのではないか」と思う方もいるかもしれません。

 

 ですが、私たちは「心に触れる」という表現を使うことがあります。


 つまり「心温かい」という雰囲気は、実際に触ることができなくても触れたような、触ったような、そういう感覚があるかなのではないかなと思います。それにより「心が温まるようなお手紙をありがとうございます」と言える、とそれぞれの辞書の語釈を読んだ限り私は考えます。


 そうはいっても、辞書の中には「暖かい」で表現することを許しているものもあります。

 では、気持ちや心の「あたたかさ」を、「暖かい」で表現する場合、「温かい」とどういう違いを出すことができるのでしょうか。

『漢字解き明かし辞典』には次のように書かれています。


**********

(前略)特に、手紙や声援と言った具体的なものごとでなはなく、「暖かい家庭に憧れる」のように抽象性が高い場合に《暖》を書くのは、漢字の意味にもよくマッチする。

**********


 引用の中に「暖かい家庭に憧れる」という例文がありましたね。

「暖かい」は「気温や身の回りが、程よい高い温度に保たれていること」でしたから、「その家庭がかもし出す雰囲気」に目を向けた言い方をするのであれば、「暖かい」とすると良さそうです。(もちろん「温かい家庭」でも問題ありません)


 いかがだったでしょうか。


 気持ちや心の「あたたかさ」を伝える場合は、一般的に「温」を使いますが、「暖」を使うこともある――ということが分かっていただければ幸いです。

(*ただし、使用する際はどちらか一方を使うと決めた方が、読み手が惑わなくて済むと思います)


 次も「温かい」と「暖かい」の話が続きます。



◇掲載場所◇

『NIHONGO ‐Ⅱ‐』2022年―5月―Column1

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