Column2 「不用」と「不要」

 今回は、「不用」と「不要」の使い分けについて考えてみようと思います。


     ☆


 ――不用なメールは削除していただくようお願いいたします。


 あるとき、上記のような例文を見かけました。ここで使われている「不用」ですが、「『不要』の間違いではないか」と思って調べてみたのです。

 すると下記のような語釈が辞書には書いてありました。


**********

【不用】『明鏡国語辞典 第三版』

 使われないこと。


【不要】『明鏡国語辞典 第三版』

 必要としないこと。いらないこと。

**********


 それぞれの語釈を並べてみると、意味がよく似ているのが分かりますね。そのため辞書によっては、「不用」と「不要」を一括りにして説明しているものもあるくらいです。


 ですが、別の書き方があるということは、微妙にニュアンスが違うということでしょう。

 その違いを感じてみるべく、「不用」と「不要」のそれぞれの語釈を入れて考えてみようと思います。



①「使われていない」メールは削除していただくようお願いいたします。(「不用」の場合)

②「必要としない」メールは削除していただくようお願いいたします。(「不要」の場合)



 こうやって並べてみると、微妙なニュアンスの違いが見えてくるような気がします。(①は語釈をそのまま入れると尊敬語のようにも捉えられるため、少し弄っています)


 どうやら①の場合は、「すでに使われなくなっている状態のもの」を表していて、②は「使わなくても問題のない状態のもの」を表しているような感じがします。

 もしかすると、この辺りが使い分けのポイントなのかもしれませんが、私の個人的な考えなのでさらっと聞き流してくださいませ(笑)

 結局のところ、これは書き手に委ねられることが多いのかなと思います。


 ちなみに新聞社でも「不用」と「不要」について悩むことがあるようですが、正直どちらが正しいということは、現時点で言えない状況のようです。(『毎日ことばplus』参照)


『毎日ことばplus』によると、古くからの表記は「不用」。10世紀ころに執筆された『土佐日記』や『枕草子』でよくみられ、一方の「不要」は13世紀ころに執筆された『正法眼蔵』にしかないそうです。

 ここから考えると、「不用」と書く方が歴史的な文献からみると正当とのこと。


 ですが、「不要」も使うようになった現代は、全て「不用」として使えるわけではありません。


『明鏡国語辞典 第三版』のように、「不用」と「不要」をそれぞれの見出しを立てて使い分けが載っているもののほうが多いですし、「必要もなく、急いでもいない」という意味である「ふようふきゅう」は「不要不急」と書き、「不用不急」とは書きません。


 このように「不用」か「不要」のどちらかを使うのか決まっているものもあるので、それについては決まっているものの流れに任せ、それ以外で使用する場合は「現に使われている用例」なども参考にしながら、使い分けをしていくといいのかなと思います。



◇掲載場所◇

『NIHONGO』2021年―11月―Episode1

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