「お」

Column1 「思う」と「想う」の使い分け

 今回は「おもう」の中でも広く使われる「思う」と、場面によって使い分けされている「想う」について取り上げようと思います。


     ☆


「おもう」は、よく小説や漫画の台詞セリフなどの中で、「思う」と「想う」で使い分けがされていることがあります。


 しかし、辞書を引いてみると、意外にも二つの「おもう」の使い分けががされているものはそう多くありません。


 その理由として、「想」は常用漢字の中で「ソウ」という音読みだけしか掲げられておらず、「おもう」とは記されていないことと(『常用漢字表』参照)、これまでの歴史の中で使われてきているものが、ほとんど「思う」であることが考えられます。


 後者については、古語辞典を調べてみると分かります。

『旺文社全訳古語辞典 第五版』『三省堂全訳読解古語辞典 第五版』『岩波古語辞典補訂版』を見た限り、どの項目も「思ひ」「思ふ」(もしくはひらがなの表記)であり、『古典基礎語辞典』には「おもひ」の項目に一件「想ひ」があるだけでした。

 使われていなかったわけではないものの、事例はそれほど多くないのが分かると思います。


 ですが、言葉は生き物。

 最近は、「思う」と「想う」を書き分けて使っている人が増えてきているので、自分でも使いたいなと思っている方もいることでしょう。

 では書き分ける場合、どうのようにしたら良いのでしょうか。


『明鏡国語辞典 第三版』を引いてみると、「[想]は主に心にイメージを描く意で使う」と記載されています。

 例として、「幼少のころを想う」「想う人はもういない」などが挙げられていましたが、何故「心にイメージを描く意」で使われるのか。


『漢字の使い分けときあかし辞典』を調べてみると、次のようなことが書かれています。


**********

(前略)「おもう」と訓読みしてよく用いられる感じとしては、もう一つ、《そう》がある。この漢字に含まれる「相」は、「目」を含んでいるように、本来は〝見る〟ことに関す漢字。ここから、《想》も〝心で見る〟ことに関する感じというよりは「おもい描く」「おもい浮かべる」という意味合いになる。

**********


 上記の引用からも分かるように「想」には、「思い浮かべる」というように、明確なイメージを心に浮かべて見ることが分かりますね。


 ここから、思い浮かべる対象に対して強い思いを抱いていたり、はっきりと想像できるものに対しては「想」を使うと、「思」との使い分けに効果を見出すことができるかと思います。


 いかがだったでしょうか。

 使い分けの際に参考になれば幸いです。



◇掲載場所◇

『NIHONGO』2021年―10月―Column3


★『ことば』までで使用していた辞書の内容のみを掲載しているため、『三省堂現代新国語辞典 第七版』『旺文社国語辞典 第十二版』の内容は反映させていません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る