Column2 「探す」と「捜す」の違い①
今回は、「探す」と「捜す」の使い分けについて考えてみようと思います。
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「探す」と「捜す」、皆さんは使い分けをしているでしょうか。
実はこの二つ、意味に大差がないため混用されることも多い漢字です。
ただ、ある程度線引きはされているので、今回はどうやってそれを判断するのかを考えてみようと思います。
まず、二つの使い分けについて『学研現代新国語辞典 改訂第六版』から引用いたします。
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【さがす】『学研現代新国語辞典 改訂第六版』
探す「(欲しい物を見つけ出そうとする)古書店で初版本を探す・宝物を探す・職を探す・借家を探す・人のあらを探す・探し物を見つける」
捜す「(見えなくなった物を見つけ出そうとする。捜査。捜索)犯人を捜す・落とし物を捜す・財布が見当たらないと言って家捜しする・迷子を捜す」
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このように書いてあります。『明鏡国語辞典 第三版』も見てみましょう。
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【さがす(探す・捜す)】『明鏡国語辞典 第三版』
〘書き分け〙一般に、欲しいものは[探]、見えなくなったものは[捜]と使い分けるが、混用されることも多い。
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さて、二冊の辞書の「さがす」の使い分けについて引用しましたが、ここから「探す」は「欲しいものを見つけようとする」意味を持っており、「捜す」は「見えなくなったものやなくしたものを見つけようとする」意味を持っていると考えられます。
例えば「古書店で初版本を探す」は「初版本」が欲しいわけなので、「探す」が当てはまりますよね。
また「宝物を探す」や「職を探す」というのも、「宝物」や「職」を求めている(欲しいと思っている)ので、これも「探す」が当てはまります。
では、「犯人を捜す」はどうでしょう。これは「犯人」がいることが分かっていて見つけ出そうとしているので「捜す」が当てはまるんですね。
また「落とし物を捜す」も「気づかぬうちに落としてしまった金品を見つけ出す」という意味なので、「見えなくなったものを見つける」と考えれば「捜す」が当てはまるかと思います。
こうすれば、確かに「探す」と「捜す」の使い分けは可能です。
では、次の例文は「探す」と「捜す」のどちらが適切でしょうか。
――カギをなくして部屋の中をさがす。(『三省堂国語辞典 第八版』より引用)
「見えなくなったものを見つけようとする」のであれば、「捜す」が適切と思うでしょう。
しかし、これは「探す」なのです。
上記に記したように、この例文は『三省堂国語辞典 第八版』から引用していますので、この辞書の「探す」の語釈を見てみましょう。
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【さがす(探す)】『三省堂国語辞典 第八版』
①〔ほしいものを〕〈見つけよう/手に入れよう〉として、動き回る。
「職を━・家を━・昼食の場所を━・カギをなくして部屋の中を━」
②見つけようとしてほうぼうを見る。
「辞書でことばを━・あらを━」
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つまり、『三省堂国語辞典 第八版』では「なくしたカギをさがす」ことは、「ほしいものを見つけようとして、動き回る」ことに当てはまるということです。
念のため『三省堂国語辞典 第七版』(前の版)も引いてみたのですが、このときは「カギをなくして部屋の中を探す」の用例は掲載されていませんでした。第八版になる際、辞書編纂者の方が辞書を使う人が漢字の使い分けをしやすいように増やしたのだと思われます。
この辺りが「探す」と「捜す」の使い分けの難しいところです。
さらに『てにをは辞典』を引いてみたところ、「犯人を探し出す」という用例もありました。
『学研現代新国語辞典 改訂第六版』を用いた説明では、「犯人を捜す」と表記していたにもかかわらずです。
ということで、今度は『漢字の使い分けときあかし辞典』を用いて、「探す」と「捜す」について考えてみようと思います。
長くなるので次のColumnに続きます。
◇掲載場所◇
『ことば』2023年―8月―Column7
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