Column2 「まだるっこしい」? 「まどろっこしい」?
今回は、「まだるっこしい」と「まどろっこしい」という、似た表現を取り上げようと思います。
☆
―—まだるっこしい文章で、読みにくい。
あるとき、上記のような例文を見ました。
「まだるっこしい」とは、「じれったいほど動作や反応がのろい」(『明鏡国語辞典 第三版』より)という意味なのですが、これを見たときに私は「『まどろっこしい』ではないかな?」と思いました。私の中では「まどろっこしい」の方がよく耳にし、しっくりきたからです。
ですが、辞書を引いてみると「まだるっこしい」という表記もありました。また「まだるい」や「まだるっこい」というのもあるようです。
ということで、それぞれの辞書の見出しについて下記に整理してみました。
●「まどろっこしい」という見出しがある辞書
『明鏡国語辞典 第三版』『三省堂国語辞典 第八版』『新選国語辞典 第十版』『旺文社国語辞典 第十一版』『大辞林4.0』『デジタル大辞泉』
<他も見出しはあるが、どちらかというと「まどろっこしい」派(*1)>
『明鏡国語辞典 第三版』『三省堂国語辞典 第八版』『新選国語辞典 第十版』
●「まだるい」という見出しがある辞書
『新選国語辞典 第十版』『旺文社国語辞典 第十一版』『三省堂現代新国語辞典 第六版』『学研現代新国語辞典 改訂第六版』『大辞林4.0』『デジタル大辞泉』『精選版日本国語大辞典』
<他も見出しはあるが、どちらかというと「まだるい」派>
『三省堂現代新国語辞典 第六版』『学研現代新国語辞典 改訂第六版』
●「まだるこい」という見出しがある辞書
『大辞林4.0』『デジタル大辞泉』『精選版日本国語大辞典』
<他も見出しはあるが、どちらかというと「まだるこい」派>
『大辞林4.0』
●「まだるこしい」という見出しがある辞書
『大辞林4.0』『精選版日本国語大辞典』
●「まだるっこい」という見出しがある辞書
『明鏡国語辞典 第三版』『新明解国語国語辞典 第八版』『三省堂国語辞典 第八版』『三省堂現代新国語辞典 第六版』『学研現代新国語辞典 改訂第六版』『大辞林4.0』『デジタル大辞泉』『精選版日本国語大辞典』
<他も見出しはあるが、どちらかというと「まだるっこい」派>
『新明解国語国語辞典 第八版』『旺文社国語辞典 第十一版』『デジタル大辞泉』『精選版日本国語大辞典』
●「まだるっこしい」という見出しがある辞書
『明鏡国語辞典 第三版』『旺文社国語辞典 第十一版』『大辞林4.0』『デジタル大辞泉』『精選版日本国語大辞典』
こうやってみると、すごく沢山の言い方があることが分かります。
それにしても、何故このように沢山の表記の仕方があるのでしょうか。
神永暁著の『さらに悩ましい国語辞典』によると、「まだろっこしい」は長い時を経て表記が幾度も変化してきた言葉らしいのです。
元々は「まだるい」だったようですが、そこから「まだるこい」→「まだるっこい」→「まだるこしい」→「まだるっこしい」→「まどろこしい」→「まどろっこしい」と変化してきた模様。(なかにはどちらが先かはっきりしていないものもありますが、ややこしくなるので、ここではこの順番にしております)
「まだるい」(辞書によっては「まだるこい」)以外は、どれも「まだるい」の強調表現なのですが、思わず「変わりすぎじゃないか?」と突っ込みたくなるくらい、言い方が増えてしまっています。
「まだるい」が「まだるこい・まだるっこい」となったのは、「ほそい」が「ほそこい・ほそっこい」と変化した経緯と同じなので、言葉の変化の流れとしては自然のようですが、「まだるこしい」が「まどろこしい」と、「だる」が「どろ」になったのは関係性が不明とのこと。
音が近くて聞き間違えたものが広がったのではないかなと、素人ながらに思いますが、今回調べた限りではきちんとした理由は分かりませんでした。
ちなみに「まどろっこしい」と使われ始めたのは大正時代からのようで、変化としては最新のようです。「まだるっこい」のほうが歴史があるということですね。
言い方が色々あって少々面倒そうな言葉ではありますが、手元にある辞書を調べた限りどれが間違いというわけでもないようです。
もし使うとしたら、皆さんはどの言い方がしっくりくるでしょうか。
◇掲載場所◇
『ことば』2023年―7月―Column1
【補足】
*1…… ちなみに「<他にも見出しはあるが>」というものは、例えば「まだるっこい」と調べたときに「『まだるい』の見出しを見よ」という注釈が書いてあるものを抽出しています。
「まだるっこい」を調べて「『まだるい』の見出しを見よ」というのは、「『まだるい』の語釈が、『まだるっこい』の意味を網羅している」ということですので、「どちらかというと『まだるい』に重きを置いている」と考え上記のように記しました。
ただし、これは個人的なニュアンスの取り方なので、辞書編纂者の方々が考えている方針とは違っている可能性がありますので、その点はご注意ください。
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