Column3 「違和感を感じる」は間違い?

 今回は「違和感を感じる」について、取り上げようと思います。


     ☆


 皆さんは、「違和感を感じる」という使い方はするでしょうか。

 もしかすると「『違和感を感じる』は、重言じゅうげんで間違いだから使っていない」という方もいらっしゃるかもしれませんね。


「違和感を感じる」というのが間違いであると主張する方の考え方としては、「違和感」の「感」と「感じる」が、重複しているから誤りだということなのでしょう。

 同じ意味の言葉を重ねて言うことを「重言じゅうげん」と言い、くどい印象があるため避けられる表現なのですが、「違和感を感じる」もそれに当てはまるとのこと。


 しかし、本当に誤りなのでしょうか。


『明鏡国語辞典 第三版』で「違和感」を引くと次のように書いてあります。


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【違和感】『明鏡国語辞典 第三版』

周りのものと調和がとれていないという感じ。(中略)

「違和感を感じる」は、重言だが広く使う。

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 上記の引用を見ると、『明鏡国語辞典 第三版』では「違和感を感じる」について誤りとはしていないことが分かります。では、何故『明鏡国語辞典 第三版』では「違和感を感じる」を「誤り」としていないのでしょうか。


 これについて、『明鏡国語辞典 第三版』の編者である北原保雄氏が書いている『続弾! 問題な日本語』には、次のような解説がされていました。


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(前略)「違和感を感じる」となりますと、「〝違和の〟感じを感じる」となるため同じ情報ということで、「違和の」という新しい情報が追加されます。

 「昔の武士の侍」「馬から落馬する」などを重言じゅうげんと言いますが、重言がよくないのは、繰り返しであって新しい情報が加わらないからです。「昔の武士」と「侍」は同じものですし、「落馬」は「馬から落ちる」ことですから、「昔の武士」も「馬から」も余計な重複表現です。ところが「昔の武士の〝強い〟侍」「〝暴れる〟馬から落馬した」などのように「強い侍」「暴れる馬」などと新しい情報を加えると、かなり自然になります。

(中略)

 以上のような論理を理解して、もう一度「違和感を感じる」について考えてみますと、単なる「感」を「感じる」というのであれば、全くの意味のない、不自然な表現ですが、「〝違和〟感」を「感じる」というのですから、あまり不自然ではない言い方であると言うことになるでしょう。

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 いかがでしょうか。

 上記の引用から、「違和感を感じる」の「違和」が、新しい情報として追加されていると考えられるため、「違和感を感じる」というのは重複表現には当てはまらないということがお分かりになると思います。


 また、似た者同士の言葉として「劣等感を感じる」もありますが、これも「違和感を感じる」と同じ理屈が当てはまるので正しいことになるでしょう。


 ちなみに「『違和感を感じる』は誤りなので、『違和感を』という使い方をすべきである」という意見もあります。


 しかし、ここで使われている「覚える」は「感じる」と同じ意味合いなので、「一方が正しいということもない」とも北原氏は主張しています。


 ……と、ここまで説明してきましたが、これは辞書によっても見解が違います。


 私が今回取り上げた『明鏡国語辞典 第三版』以外に、『三省堂国語辞典 第八版』も「『違和感を感じる』は昔からふつうに使われる」と語釈に書いてありますが、『大辞泉』『大辞林4.0』『旺文社国語辞典 第十一版』『三省堂現代新国語辞典 第六版』の用例に出ているのは「違和感を覚える」だけで、「違和感を感じる」という記載がありませんでした。


『学研現代新国語辞典 改訂 第六版』は「違和感を与える」という例文で、「覚える」「感じる」を使わない方法を取り、『新明解国語辞典 第八版』については「」という記載でした。ここから想像するに『新明解国語辞典 第八版』では「違和感を感じる」だけでなく「違和感を覚える」に対しても意味が重なっているため、これらの表現は避けた方がいいと考えているのかもしれません(私の想像ですが)。


 何にせよ、上記に挙げた「違和感を感じる」の表記のない辞書は、議論になりやすい部分であることから、それを避けるために記載していないのかなと思います。


「違和感を感じる」について認めている辞書はそれほど多くはありませんが、今後使う人が増えて来ると、他の辞書にも用例として挙げられることも多くなってくるのかなと思います。


 皆さんは、「違和感を感じる」という表現は使うでしょうか。



◇掲載場所◇

『NIHONGO』2021年―7月―Episode5

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