初めましてハルマゲドン Meet ya in Harmagedōn

@nandai34

第1話 いつも此処から



 全寮制ファートゥム帝国高校科学技術科を卒業した俺は路頭に迷っていた。帝国大学へエスカレーター方式で行けると踏んでいた過去の俺を恨みたい。ようは大学入試に落ちたということだ。まったく大学に進学することしか考えていなかったので就職の準備をしていなかった。科学技術と一見かっこいいように聞こえる単語だがこの国では科学は魔法に劣るものだと見なされているし、実際確かに科学より魔法の方が使い勝手がいいのは事実である。残念なことに俺には魔法を使う能力がなかったから科学技術科に進学した。

 ただ帝国大学への進学はかなりハードルが高いようで、甘く見ていた俺は容赦なく振り落とされてしまったのさ!

 就職と言っても帝都はとにかく就職に学歴がいる。親の住む田舎で自給自足で生きる?それは嫌だ、だってプライドが許さない。どうしてこの俺が田舎になんか住むものか。帰るものか。そう思って一週間。そろそろひもじくなってきた。飯を食わんといけない。人間は腹が減る生き物だからな。ところが動かない。流石に一週間飲まず食わずは辛い。こんなんだったら田舎に帰るべきだったか?いいや、この街で死ぬなら本望だ。さようなら帝都。


「...は!ここは!あの寮母のババァの部屋か!?」

 目が覚めると小部屋のような部屋で悪事を働いた時に連れていかれる寮の折檻室の天井のように見えた。ファートゥムの高校生の大体は小部屋が折檻室に見えてしまうぐらい恐ろしい洗脳を受けているのである。

「違うわよ...帝国高校の生徒さん...勝手に出てきたらダメじゃないの...あそこ全寮制でしょ?」

 ブロンドヘヤーで妖美を持つ女性が座りながらおっとりした声で言った。

「いえ、僕はもうあそこを卒業したんです。でもどうして僕があそこの生徒って知ってるんですか」

「いやね、制服着てるじゃない。そのボロボロの服よ…」

「あ、そうか。えへへ3年間同じ服だったもんで」

「それ以外に服持ってないの?ご飯も食べてないようだったし、一応回復魔法はかけといたけどご飯はちゃんと食べなきゃだめよ…魔法は万能じゃないんだしね…アーンしてあげよっか?」

「子供扱いしないでください!飯ぐらい自分で食べれます!ほら、どこにあるんです!パンでもスープでもいくらでも食べてやりますよ!」

「あらあら懇願する態度じゃないわね...素直にならないとだめよ。ご飯食べさせてあげないことだってできるんですからね…まぁ素直じゃない子も好きよ…」

「ほら案内してくださいよ!」

 子供みたく急いで立ちあがろうとするも身体が言うことを聞かず脱力してしまった。

「あらあら、威勢だけは良かったのに...うふふ、いいから座ってなさい。ご飯は持ってきてあげるわ」

 どうやらこういう客は珍しくないような様子で焦る仕草も見せず、彼女は丸型のパンと薄い色のスープを持ってきた。

「あんまり、美味しくないですね。」

「そうでしょ。教会のご飯ですもの、質素倹約の精神が食卓まで行き届いてるってことね...まぁ私はここのご飯は食べないけどね。近所の東洋料理店しか行かないわ。私は味付けの濃いものが好きでね。」

「ここは教会なんですか。じゃあ貴方はシスターってことですね。」

「半分正解で半分間違いといったところかしらね。ここは教会。だけど私はシスターではないわ…魔術魔法を研究している魔法使いかしらね」

「大学の教授か何かですか?」スープを飲み干して残りのひとかけらのパンを咀嚼しながら聞いた

「そうね…大学にはいったことはないけど…あそこは魔術よりも科学技術ね…正確にはアッフェクトスとラティオとか学術用語では言うらしいけど」

「つまりどういうことです?」

「魔術は科学より形而下ということらしいわよ...」

「とどのつまりどういうことです?」パンを飲み込んでから言った。

「魔術は科学より意思の強い感情的で感覚的な領域らしいの。科学はそれを含めて認めた上での論理的な領域らしいわよ…」

「科学が魔術を含んでいるんですか?それはちょっと信じられません。」

「魔術は感情のエネルギーを力学的エネルギーだったり熱エネルギーだったりに変換することで魔法を生み出しているの。科学はそれを論理的に理解しようとしているんだわ…とはいってもこれは魔術力学とか魔術生物学の分野で純粋物理学だと普通に意思のない物体の移動を解析したりするらしいわよ…」

「はぁ...」

「つまり簡単に言えば魔術は科学では現状説明しにくいものと考えていいわ…科学は再現性が必要でしょ?だけど魔術は人によって使えたり使えなかったりする。非科学的だと思う人も多いわ。だからこそ高貴なもの、神聖なもの、神の領域と思い込む人もいる。逆にこれも科学で説明できると考える科学者は少なからずいるのよ…」

「感情も科学的なもんだってことですか」

「そ…全部、物質の移動で説明がつくわ。感情なんてそんなもんよ…」

「難しい話はとりあえずこの辺にして、貴方の名前は?」

「わたしは、トリア・クァットゥオル。ここの教会は魔法使いの交流場としても使われているの。教会は魔術の発展を目的とした研究所でもあるのよ。大学みたいなもんね…」

「はぁ、僕は高校卒業して行き場もない18歳。名前はアストルム・アエテルニタス。現在無職です。」

「あらあら、警察に捕まってるわけでもないんだしそんなに肩張らなくていいわ。年もそんなに離れていないんだし。」

「あなたは何歳なんですか」

「あらあら、いきなり攻めてくるわね。実は意外と攻めなのかしら…?まぁ3歳違いってことだけは教えてあげるわ…」

「俺とほとんど変わらないじゃないか!」

「やっと本性を表したのね…素直な君の方がお姉さん好きだな」

 妖美な彼女からどことなく大人な雰囲気がしていたが育ちがいいからかもしれない。高校時代、寮を抜け出して会いに行っていたような女子たちからは感じられない妖艶さが彼女にはあった。

「これから君はどうするの?大学落ちたんでしょ?受かってたら今頃大学で新入生パーティでも行ってるはずですもんね。アハハ、ちょっと意地悪だったかしら…?」

「ふん、あんたにはわからないでしょ。俺のこの行き場のないやるせなさが。頭がいい人にはわからないですよ。魔術が使えるような人たちにはね。」

「あらあら、魔術ができないなら科学を究めればよかったんじゃないかしら...?あら、顔が笑ってなくて…?にーってしましょ、にーって」トリアは俺の口角を指で無理やり上げた

「やめろよ!子供じゃないんだし」

「そんなに怒らないでよ...同世代の子が来てくれて嬉しいんだから…」

「勝手に連れ込んだんでしょ!もういい、帰る!」

「どこへ?」

「公園で寝泊まりでもしますよ。適当な仕事でも探して宿で生活しますよ」

「あら、モーテル難民ってやつかしら?今流行りの。」

「なんでもいいさ。とりあえず今日は公園で寝ます。さようなら」

「じゃあお姉さんも行くから待ってね」

「来ないでって言ってるだろ!僕は一人で生活するんです。どうせわかってくれる人なんて居ないんだし。」

「さっきから敬語になったりタメ口になったり動揺してるわね…お姉さんの目を見て言ってごらんなさいよ…?」

「ふん!うるさいうるさいうるさーい!!」


 そうして教会を出てきた俺だが、素寒貧ですっからかん。公園は家の無い勇者や勇者ワナビ、夢追い人の溜まり場になっていることを知っていたので(高校時代は彼らとよく賭けポーカーをしたものだった)、寝るには最適な場所だと思って向かった。

「よう、トルムじゃないか!(俺はあだ名でトルムと呼ばれていた)どうしたんだい、エリート校の学生がこんな時間に」飲んだくれの勇者スピーリトゥスが俺を見るたび声を荒らげた。

「ええもう俺はエリートでもなんでもありませんよ。残念なことにね,大学に落ちたもんで、あなたたちと同じところまで堕ちましたよ。えへへ」

「ほんとかよ兄ちゃん、冗談よせよ。今日は大学の新歓だったろ。新歓パーティにこっそり忍び込んで食い放題。ヤリ放題ってな。トルム、お前とは会わなかったけど、行かなかったのか?」

「行かないですよ、受かってないんだから」

「本当か!受かってないってのは!あんた、これからどうするんだよ冒険職にでも就くのかい?やめとけやめとけ、どうせなれやしないんだ。俺も昔は勇者としてダンジョン巡ってたなぁ。いまや、対立組織もないんで暇だけどな。ま、平和なのはいいことだけどな。ところでお前、俺たちみたいになっていいわけないだろ。冗談抜きの話だ。俺たちみたく堕ちていいわけないだろ。ここにいる奴らは全員3,40代、もうこれからがない人間ばっかりだ。10代が堕ちるような場所じゃねぇ。落ちるのは大学だけにしとけ。さ、帰った帰った。」

「とはいっても帰る場所がねぇんですわ」

「田舎に帰れよ。親元に田舎に戻れよ。」

「嫌ですよ、あんな田舎もう戻りたくない」

「だったら仕事でも探すんだな」

「とはいえ家がないとどうにもなんないよな。公園で寝泊まりするつもりだったけど、公園にいちゃダメだっていうし」

「わったよ、俺の家紹介してやる。」

「家持ってるのかよ?!」

「つっても何年も行ってないんだけなへへへ。」

 

 スピーリトゥスは先導して、公園を北に抜けて丁字路を右に曲がってそのあと、ストリップバーの隣の路地を抜けた治安が悪い地域へと足を進めた。

「こんなところに家を建てるかね」

「安かったもんでな。この地域はもともと治安がよかったんだ。でも安いから変なやつが居座ってきてな。そいつらと交流するうちに気づいたらカミさんが居なくなってた。いやぁ、カミさんも変なやつの一員だと思ってんだけどなハハハ…それ以降もこの家に来なくなっちまってな。一人暮らしには広すぎるしな。どうしてこんなとこに家を建てちまったんだろうな」

「立地の問題じゃないと思うんだが!」

「立地は悪いが部屋は綺麗なはずだ。カミさんは掃除好きだったしな。よし施錠魔法はなんだったかな。クラビスクラビスだったか?発音が違うか?クラヴィスクラヴィス。こうか。よし入れ。寝巻きぐらいならあるだろ」

 部屋の中は埃こそ溜まっているものの物が散乱している様子みなく、きっちりと整頓された様子だった。二階建てで吹き抜け構造。壁にはスタンドグラスで採光していた。とてもスピーリトゥスの家とは思えないほど綺麗な家だった。

「ふーん思ったより、いい家かしらね…」この声はまさか。

「な!お前!ついてきたのか!」

「なんだ彼女か?」

「あらあらわたしはついていくっていったわよ...いきなり名前呼び?大胆ね。いいのよ。別に気にしないで。そういう人、この辺だと珍しいのよね。だからドキドキしちゃうの。」

「なんか変な喋りの彼女だな。何人目の彼女だ。来るたび新しいのを連れてくるな。火遊びはダメだぞ。いつか痛い目をくらうからな。アハハ...」実体験を語ってるようだった。触れないでおこう。

「もう遊んでられねぇよ。無職だしな。本気で仕事探さないといけないんだから。あと彼女じゃねぇよ。ただの知り合いだ」

「それならいい仕事があるわよ...ヒミツの仕事。」

「嫌だね怪しい仕事だろ。怪しそうな口調だしな」

「いや,俺は違うと見るね。彼女さんの腕についてる腕輪、あれは高位の人間しかつけられない。この辺だと有名だ。お前は田舎もんだからわからないだろうけどな。きっと高給の仕事だぜ」

「そう、その彼女さんが下民のあなたに仕事をあげてあげてもいいと言ってるのよ…感謝しなさい。」

「いや俺は普通の機械の製造とか工場こうばで働くつもりなんだよ」

「バカ言え、製造業も工場もここいらは全部家族経営だよ。コネがなきゃ働けないの。お前みたいな村出身は易々と働けないの」

「そう。大卒だったら建築士とか気象士とか帝都・帝国職員などなど仕事はたくさんあるけど、まぁあなたには無理のようだもん。」

「そうだぞ、お前は大学に落ちたんだからな。黙って彼女さんの言うことを聞け」

「わあったよ。で?何すればいいの?やりますよ、やればいいんですもんね。へいへい」

「本を探して欲しいの。日記帳よ。カラミタの書の裏付けとなったとされる本。存在しているのかわかんないんだけどね」

「カラミタの書?宗教絡みのか?まさか嬢ちゃん、シスターかなんかか。なるほどだから高飛車な女だったんだ。やめとけトルム、あいつらはろくな人間じゃないぞ」

「いや、わたしはシスターじゃないタダの魔法使いよ…シスターは若干横暴というか狂信的なところはあるけど…私はそれを解き明かしたいの。カラミタの日記帳にはそれを裏付ける証拠があるはずなのよ!」

「タダの魔法使いがそんな腕輪つけられるわけないんだ。宗教幹部か帝国関係者しかありえん!若い帝国職員はおらん、あそこは古巣の集まりだ。宗教関係者だろうお前は!」

「もう、魔術の世界に疎い人たちばっかりで困るわ…トルム、一緒に見つけようよ…」

「トルム、しらねぇぞどうなっても!」

「うるさいな!やれとかやるなとか!で、その仕事いくらなんだ?額によっちゃ受けてやらなくもない」

「そうね、1,000,000ドクラマは硬いってとこかしらね」

「危ない仕事だぞやめとけやめとけ」

「わかった。でもやめたくなったら俺はいつでも抜けるからな。」

「いいわ、それでもきてくれるだけで嬉しい…」

「ダメだなこいつは昔の俺みたいだ」スプリトゥスは感嘆した。

 

 俺は彼女について行くように路地を出て丁字路を左に行き公園を南に幾分進んだところに着いた。

「教会じゃないか。また!」

「そ、こんなかにある本を探すの」

「そんなの一人でやればいいだろ。それに俺は魔術が使えないんだから教会に入っても怪しまれるだろ?」

「大丈夫、バレたら顔は見せたらダメよ。これから入るところは宗教関係者以外出禁の聖域なんだから…!」

「大丈夫なのかよ、それでもシスターなのかよ」

「わたしはシスターでもなんでもないって言ってるでしょ。ただの魔術が使える普通の人。だから普通に接して。お願い…」

「まぁ隠したいことがあるんだろうけどこの際身の上話なんかどうでもいい。俺の初仕事、張り切って行きますよ!!」


 教会に入るときに頭から黒い薄い布を彼女から被せられた。

「顔がバレるとまずいもんね…」随分とラフな口調で言った

 彼女は他のシスターを横目で見ながら、一歩ずつ前に進んでいって何もないすみの方までたどり着いた。

「じゃあ今からちょっと、魔法をかけるからね。最初は驚くかもしれないけど手を離しちゃダメよ。」彼女は小声で呪文か何かを呟きながら段々と繋がれている手の方から電気刺激がビリビリ伝わる。指先から徐々に透明になっていった。

「わかるこの感覚。君は魔術使えなかったよね。だけど努力すればこれくらいの魔法は使えるようになる。トルムに教育してあげるからねちゃーんと…」彼女と俺は透明になり、誰にも気が付かれないように秘密の図書館なるところへ向かった。

 道中、カラミタは神の名で生きる伝説であること、魔術師でありながら神、ここの教会はその彼を祀る場所である聖域であるということをトリアから教わった。俺は田舎育ちだから教会もなければ科学も魔術もない土地で育った。だからこのカラミタという言葉に親近感が湧かなかった。ただこの地域では有名な名前らしい。公園の中央にカラミタの銅像があることを彼女から知った。キヅカナカッタナぁ。

 図書館は地下にあり、途方もなく広かった。帝都外れのオムニバス平原ぐらいである。あるいは、アグリコラとかいう田舎町ぐらいである。図書館を赤い光が灯しているが光源は見えない。魔法で光ってるのかもしれない。

「さぁここから本を探してくれる…?」

「無理だよ、こんなんじゃキリがない。」

「そうよね…でも大丈夫。これでも一人で長い間こっそりやってたんだから。今、場所を教える…そこを探してくれる?」彼女は魔法でまだ探していない本棚を指示した。

「くれぐれもさっきの魔法なんか使おうなんて思っちゃダメよ…素人なんだから…」

「っちバカにしやがって」

 彼女の探すよう指示した本棚はだいぶ大きかった。少なくとも500冊以上はありそうだった。それでも一区画にすぎない。これを一人でやっていたトリアはきっときっと気が違ってるに違いない。

「えっと、カラミタ天体解体新書、辛味を感じる魔法料理、唐揚げの作り方100選?これはねぇな…諦めるか。」

 ちょっと考えた。魔法を使ってみちゃうか。思案した。ふいに唐揚げの作り方に100通りもあるのか少し気になったがそれはいい、今は関係ない。前に学んだ時とは違う。身で感じた魔法。ちらっ。ちらっ。あいつはいない。思い出せ。脊髄で感じたビリビリ。そのまま手に返せ。うごおおおお!!!

 ボァッ!!火が出た!!キレイダナぁ。じゃない!危ない!あうあう水が出せる魔法とかないのか?!畜生!トリアめ役立たない魔法教えやがって!!

 そうこうしているうちに本に引火してしまった!

「トリア!!助けろ!やばい!」

「トルム、静かにしてくれる?って!!何やってるの!!」

「魔法のせいだよ!!」

「だから使わないでって言ったじゃない!!トルム、覚悟しなさいよ!!」

 そういうとトリアは手榴弾のようなものを投げた。白いガスのようなものが出てきて、、、呼吸ができない!ガガガ助けて…

「…大丈夫?トルム、もう大丈夫。消火は終了したわ…」

「死ぬかと思った!!魔法で水でもぶっかけたんか!!」

「水なんかかけたら濡れちゃって本がダメになるじゃない…二酸化炭素よ。火が燃えるのに必要な酸素の供給を止めるのよ…」

「魔法じゃないんかい…」

「さっ…早く出ましょう…もう見つけられたから。多分、音でバレてる…俗に言うとまずいわ」

 じゃあワープするね。そう言ってトリアは俺の手を握って目を閉じさせた。目がまわる。気持ち悪い。トリアの手が俺の目に被せられているのがわかる。開いてみようか。パッ!うーん、トリアの目から少し見える。過去?未来?これは地球?隕石が落ちる?わからん。開いていると気持ちがもっと悪くなってきた。しょうがない目を閉じよう。と思った矢先…

 

「もういいわ。どうせ開けてるんでしょ…」トリアが手を離すとトルムとトリアの目があった

「あっ…」なんか緊張してしまった。てへ。眼前10cm前にトリアが居た。

 見たところ、公園に出たらしい。そこから急いで、北だか南だかに行って、その辺の路地を巡って右往左往してるうちに、やっと着いた。この場所に似つかないオシャレな家があった。スプリトゥスの家である。ドアは不用心にも開いていた。

「おい、帰ってきたか。その女に酷いことされたんじゃないか」

「やられてないよ。ちょっとばかし、俺はやらかしちまったけどな。」

「大丈夫、ちょっと指名手配されるぐらいだと思うわ…捕まったらまずいわね…あそこは全部、貴重な歴史書だし…でも、きっとバレてない。それよりこれを見て。カラミタの書。あのカラミタの日記帳。神の日記帳なんて聞いたことある?ないわよね。わかる?カラミタは神じゃない。人間なのよ。それがあの教会の隠していた真実。カラミタは偉大な魔術を操る神として看做されているだけど、魔術なんか感覚でしか理解できない。感情によって左右されやすい。ちょうどトルムがポカしたみたいにね!つまり、魔術ってのはおいそれと操れるような代物じゃない。でも彼は聖書によれば毎回、三月のカーニバルの満月の日に訪れている。そして、彼は槍を天に突き上げ叫ぶ「天に光あれ」そして太陽が創出せられた。その太陽は一夜を一瞬のうちに朝にした。でも、こんなのはありえない!こんな力を魔術で維持するのは無理!じゃあ一体どうやって?そこでこのカラミタの書が明かすのよ!オカルト界隈では有名だったけど、公然とするにはちょっとばかし教会がうるさくって…でも実際にあった!!なぜ、あんな無造作にされてるのかは知らないけど、まぁ教会側は信じたくないあまり、放置してきたのかもね?どう思う?トルム!これは世界をひっくり返すのよ!わかる?!わたしはついに手に入れたぁ!!!!!!!」トリアは叫びながら倒れた。興奮したからか、それとも魔法を使いすぎたからかもしれない。

「電池切れですかね?」

「そうみたいだな。でも、こいつがカラミタを人だと言い切ったのは意外だったな。この腕輪は(スプリトゥスは彼女の腕を取って)、宗教高位者しかもてないはず。こいつは一体誰なんだ。」

「トリアとか言ってましたよ」

「トリア?苗字は?」

「クオットルだか、ケロットルだか」

「クァットゥオルじゃないか?この辺の生まれじゃないお前には馴染みないかもしれないが、魔法の名家、殿堂、元祖と言うべき家だな。普段、その家の奴らと顔を合わせることはない。下人がいるから買い物は奴らがやってるはずだ。こっちの街には出てこないんだが、とはいえ下女には見えない。服こそ領民に擬態してるが、口調や腕輪を察するにかなり直属のニンゲンだろうな。宗教とも関係がある家だ。この国の国教、カラミタ教の謝肉祭カーニバルの儀式の運営をしてるやつだな。」

「そんな家のニンゲンがカラミタを人扱い。おかしいですね」

「いいや。寧ろ普通かもしれないな。神父や古巣の帝国のニンゲンと違って若い小娘だ。良識を持っている年齢だ。昔から司祭の闇の部分に触れてきたんだろうな。」

「トリア、妙な口調だと思っていたが…高貴な家の育ちだったんだわ…」

「口調移ってるぞ」

 トリアは眠っているように寝ていた。いやそれ眠ってるな。

「なんだよ。惚れてんのか」

「いいや。ただ人の寝顔って新鮮で」

「色々、女連れてたじゃないか。あいつらとは寝たりしてたんじゃないのか」

「いえ、そこまで行くことはなかったんですわ」

「ふーん、おもちかりはできなかったんだな(笑)」

「全寮制だったんで」

「そりゃ持ち帰れないわな。一本取られた!!」俺たちは本題を忘れて盛り上がっているとトリアが起き出した。

「…ハァっ(トリアは欠伸をした)あなたたちうるさいわよ…わたしの素性はスプリトゥスが大体言った通りね…司祭が闇とまでは思えないけど、盲信的だとは思うけどね…それよりカラミタの書!これをここに置かせてもらうことにするわ…」

「どうしてだよ!図書館から盗んできたんだろ?それがもし帝都の連中にバレたら俺が疑われるだろ!」

「大丈夫。バレないって。追跡できるような魔法もかかってないようだし。それに無造作に置いてあったような本よ…無くなってても気づかない。それよりトルムが図書館燃やそうとしたのがバレる方が問題だわ…」

「げげげ…」

「警吏の職質には気をつけるのよ…動揺したら思考詠まれる魔法でもかけられちゃうかも…でも失敗は誰にもつきもの…こんなんで魔法嫌いになっちゃダメよ?あら、図星かしら?失敗したぐらいで俺には魔法は向いてないとか思っちゃったクチかしら?大丈夫…できるまでお姉さんが教えてあげる…」

「ふん、子供扱いしないでくれよ」

「トルムが快くわたしの教育を受講してくれるようなので…さぁ皆の衆、聞いてくれ!ここを我らがカラミタの研究所とする!!

「誰だよ」

「というかここは俺ンチだ。変な反宗教の拠点にさせるつもりはないぞ。俺は無宗教で反宗教じゃないんだよ」

「いいじゃない…文句があるなら魔法対決でもする?」

「おお!!やるか小娘!いいね昔の血が騒ぐね!!、、、と思ったが、やめやめ。ここは思い出の場所だからな。無闇に人なりモンスターなり傷つけたりはもうしないんだよ。いいさ勝手にしろ。でも迷惑かけたら容赦なく法廷に訴えに行くからな。」

「カッコ悪ぃ…」

「ま、全員の了承が潔く須く得たところで改めてここを我がカラミタの研究所とする!!」

 トリアの声はスタンドガラスが割らんとばかりの力強いものだった。ここから俺らのカラミタ史の解明物語が始まった。いいや始めるべきじゃなかったのかもな。世の中、知らなくてもいいことがある。でも、やらかさなきゃ知らなくてよかったと知れないからな。じゃあトリアと関わらなきゃよかったか?、、、少なくとも俺はそうは思えなかった。

 

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