Column12 「鷲掴み(わしづかみ)」の話

 今回は、「鷲掴わしづかみ」について取り上げようと思います。


     ☆


 先日、ある文章の中に「読者を鷲掴みする作品です」というような使い方がされていたのを目にしました。(いつものように、ニュアンスだけ残してあとは変えてあります)


 一見何でもない感じがしますが、よく見ると「読者を鷲掴み」には違和感があるように思いますが、皆さんはいかがでしょうか。


「鷲掴み」とは、「わしが獲物をつかむように、手のひらを大きく開いて乱暴につかむこと」(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)という意味です。

 そのため「読者を鷲掴み」というと、「読者のことを(わしが獲物をつかむように、手のひらを大きく開いて)乱暴につかむこと」になってしまいます。


 もちろん、この文章を書いた人が、作品が読者に対してそんなことをすると思って書いたわけではいことは重々承知しています。


「読者を鷲掴み」するのが「作品」ということからしても、きっと「読者の心を鷲掴みにする作品」と言いたかったのでしょう。


 実際、「読者の心を鷲掴みにする」とか「ファンの気持ちを鷲掴みにする」という、「しっかりつかまえる」「つかまえてはなさない」という意味として使われているのは耳にしますから、この文章には「読者の心を鷲掴みにする」としたほうがいいのではないかなと、思ったという話でした。


 さて。

 上記の文章についてはそれでいいのですが、今回「鷲掴み」を調べていて、「○○の心をわしづかみにする」という使い方を認めている辞書は少ないのが意外でした。下記が調べた辞書の一覧です。



●「鷲掴み」を「つかまえてはなさない」と捉えることを認めている辞書

『三省堂国語辞典 第八版』『三省堂現代新国語辞典 第七版』『デジタル大辞泉』


●「鷲掴み」を「つかまえてはなさない」と捉えることを認めていない辞書

 はっきりと否定するものはなし


●おそらく「鷲掴み」を「つかまえてはなさない」と捉えることを認めていない辞書(⇒言及されていない・用例がないため)

『明鏡国語辞典 第三版』『新明解国語辞典 第八版』『旺文社国語辞典 第十二版』『新選国語辞典 第十版』『大辞林4.0』



 個人的に「心を鷲掴みにする」という表現そのものは、以前からよく聞いていたので、特に問題ないように思っていたのですが、上記を見るとこの用法を取り入れているものは思ったよりも少ないことが分かります。


 確かに「鷲掴み」という言葉そのものには、乱暴さがあります(上記で引用した『明鏡国語辞典 第三版』の語釈を参照)。そのため、世間一般では広まりつつあっても、辞書の中ではまだ認められないところがあるのかもしれませんね。

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