Column4 「敷居が低い」の話

 今回は、最近見かけた「敷居しきいが低い」の話をしようと思います。


     ☆


 冒頭にも書きましたが、最近ある著書で「敷居が低い」という使い方を見かけました。(*ちなみに「敷居が高い」は著書の中で使われていません)


 これを見たときは、「なるほど」と思いました。

 何故なら、「敷居が低い」は「敷居が高い」と違って、「慣用句の意味を持っていない」からです。

 それはどういうことなのか、順番に説明しますね。


 まず、「敷居が高い」の本来の意味は、『NIHONGO-Ⅱ-』でも書いたので、読んだ方は覚えているかもしれませんが、念のために振り返りましょう。


「敷居が高い」というのは、「不義理をしていて、その人の家へ行きにくい」(『新選国語辞典 第十版』より引用)というのが本来の意味です。


 しかし最近、「程度や難度が高い」(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)や「気軽に体験できない」(『三省堂国語辞典 第八版』より引用)という意味で使われることも多くなり、新しい用法として認める辞書も出てきた――という話をしたかと思います。


「敷居が高い」について、人によっては気にせず新しい意味として使っている方もいるでしょう。一方で元の意味を大事にしたいからと、「程度や難度が高い」「気軽に体験できない」という意味として使うときは「ハードルが高い」とする方もいると思います。


 では、「敷居が低い」はどうでしょうか?


「敷居」という見出しを辞書で調べても、「敷居が低い」という慣用句はありません。


「ほとんど」というのは、調べた限り一冊の辞書に出てきたからです。その辞書とは『三省堂国語辞典 第八版』でして、分かりやすく矢印で示すと次のようになるかなと思います。


「敷居が高い」……気軽に体験できない。

   ↕

「敷居が低い」……気軽に体験できる。


 辞書によって「敷居が高い」の新しい意味が若干違うので、『三省堂国語辞典 第八版』のなかで比べた内容でしかいえないのですが、こんなふうに表せるかなと思います。


 つまり、「敷居が低い」は、「敷居が高い」の新しい意味が登場したことによって生まれた、反対語ではないか――ということです。


 しかし、辞書にはっきりと記されていたわけではないので、これには私の憶測おくそくも入っています。


 ただ、元々の反対語として存在するのであれば、多くの辞書に「敷居が高い」(=「不義理をしていて、その人の家へ行きにくい」の意味)の反対語として、「敷居が低い」という慣用句が出てきてもいいはず。

 それがないということは、新しい意味(用法)として使われている「敷居が高い」の反対の意味として、「敷居が低い」が使われているのではないでしょうか。(推測のいきはでませんが……)


 そのため、これまで「敷居が高い」について「程度や難度が高い」「気軽に体験できない」という意味で使えなかった方も、「難易度が低い」「気軽に体験できる」という意味で、「敷居が低い」というのは使えるのではないかなと個人的には思います。


 使うかどうかは、人それぞれの感じ方にもよるので、「『敷居が低い』というのも使えないよ」という方もいるかもしれませんが、相手に伝わる用語として持っているのもいいのではないでしょうか。

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