4月

Column1 「交替」と「交代」

 今回は、「交替こうたい」と「交代こうたい」について取り上げようと思います。


     ☆


 前回、「降板」について取り上げた際、次のようなことを記載しました。


**********

「降板」という言葉は、「野球で、交替をさせられて当主がマウンドをおりること(『旺文社国語辞典 第十二版』より引用)」という意味です。

**********


 この中に「交替」という言葉がありますね。そして「こうたい」には、「交替」だけでなく、「交代」という熟語があることを皆さんはご存じかと思います。


 しかし、この二つはどのように使い分けをすると良いのだろう……という疑問があり、今回取り上げてみた次第です。


 さて。

 PCで「こうたい」と入力すると、親切に説明が出てきてくれます。以下に引用してみましょう。


**********

【交替】『標準統合辞書』

かわり番こ.⇒交代.「交替(=交代)」で運転する,1日交替(=交代).」


【交代】『標準統合辞書』

入れかわり引き継ぐ.「ピッチャーが交代する,世代交代.」

**********


 上記の語釈を見る限り、「交替」のほうは、「かわり番こ」とあるように、「かわるがわる入れ替わる」ほうに重きが置かれているようです。しかし、「=交代」という表記があるように、どうやら「『交替』と『交代』を同じように見ても良い」とも捉えられそうですよね。


 一方の「交代」はどうでしょう。「入れかわり引き継ぐ」という風な書き方をされているように、「一回だけの入れかわり」のときに、この言葉が使われるようです。

 しかしそれならば、「交替=交代」は成り立たないはず……。

 さて、どうしてこのような矛盾が生まれているのでしょうか。


『漢字の使い分けときあかし辞典』を調べてみると、「替」という漢字には「別ものだけど同じもの」として捉える性質があり、「代」という漢字には「役割は同じだけれどする人が違う」ということを示す性質があることが書かれています。


 例えば、「替」は「服を着替える」というふうに使えますね。

 これは「服は別ものだけれども、『着るもの』であることは同じ」ということが言えます。

 もう一つ、例を挙げてみましょうか。

「めがねを替える」というふうに使うこともあるかもしれませんね。

 この場合も、「めがねは度の違うもの(もしくはフレームが異なっているなど違う点があるけれども)、『めがね』であることは同じ」ということが言えます。


 では「代」を使うときを考えてみましょう。

 例えば、「運転を代わる」というふうに使うことができますが、これは「『運転をする』という役割は同じだけれど、別の人がする」という意味を持ちます。

 もう一つ、例を挙げてみますね。

「課長が代わる」となると、「『課長』という役割は同じだけれど、別の人がする」となります。


 ここまでくると、PCの説明のように「ピッチャーが交代する」でもよいのではないかとも思って来るのではないでしょうか。何故なら、「『ピッチャー』という役割は同じだけれど、別の人がする」という点で同じだからです。


 しかし、「代」にはもう一つ重要な性質があります。

 それは「〝本来はあるものがすべき役割〟とか〝それまではあるものがしていた役割〟という意識がある」(『漢字使い分けときあかし辞典』より引用)というもの。


 ピッチャーを使って具体例を挙げれば、「ケガをしたピッチャーを代える」というときに使えるということです。

 つまり、ここで「代える」を使うというのは、「本来は、ケガをしなければその人物がピッチャーをし続けるはずだったが、別の人がする」という意味を含んでいることになります。


 このように考えると、「交替」と「交代」を使い分ける意味や、PCの説明で「交替(=交代)」と書かれているのかが、分かってくるのではないでしょうか。


 ……と、ここまで説明してきましたが、新聞では区別せずに「交代」と使っていると『明鏡国語辞典 第三版』には記載があります。

 また、辞書を引いてみると、「交替」と「交代」を区別していないものも案外多いです。一応下記にまとめておきますね。



●「交替」と「交代」を特に区別していないと思われる辞書●

『新明解国語辞典 第八版』『学研現代新国語辞典 改訂第六版』『三省堂現代新国語辞典 第七版』『旺文社国語辞典 第十二版』『デジタル大辞泉』『大辞林4.0』『精選版日本国語大辞典』



 新聞の表記の仕方や辞書の語釈の内容から見ても、「交替」と「交代」の意味の違いが薄れてきているようにも見えます。

 そのため厳密に考えなくてもいいのかもしれませんが、「使い分けをしたい」と考えているのであれば、上記のことを考えてみるとよいのかなと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る