Column3 「降板」の話
今回は、「降板」という言葉について取り上げてみようと思います。
☆
三月は、年度末ということもあって、新たな出発を迎える人が多くいるかと思います。それにともない、これまで活躍していた場所から去る方もいることでしょう。
よってネットニュースやら、テレビの番組やらで、誰かが「卒業」なり「降板」するということを視聴者に知らせることもあるようです。つい先日も、「アナウンサーが番組を降板する」という見出しを見かけました。
しかし、この「降板」という言葉。
さらーっと流してしまいがちですが、よく見ると「アナウンサーが番組を降板する」に使うには、不思議な感じがしないでしょうか。
「降板」という言葉は、「野球で、交替をさせられて当主がマウンドをおりること(『旺文社国語辞典 第十二版』より引用)」という意味です。
ここから分かる通り、本来は野球で使われる言葉であるということですね。
さて。
今回のような「降板」の使い方は、きっと多くの人がそれなりに意味を分かって捉えているかと思いますが、辞書は認めている使い方なのでしょうか。
『三省堂国語辞典 第八版』で調べてみると、「責任ある役職をやめること」という意味があります。
どうやら認めている辞書もあるようですが、他の辞書はどうなのかも調べてみましたので、いつも通り下記に記してみようと思います。
●「降板」を「責任ある役職をやめること」と捉えるのを認めている辞書
『新明解国語辞典 第八版』『三省堂国語辞典 第八版』『旺文社国語辞典 第十二版』『新選国語辞典 第十版』『デジタル大辞泉』『精選版日本国語大辞典』『岩波国語辞典 第八版』『三省堂現代新国語辞典 第七版』『旺文社 標準国語辞典 第八版』
●「降板」を「責任ある役職をやめること」と捉えるのを認めていない辞書
はっきりと記載しているものはなし。
●おそらく「降板」を「責任ある役職をやめること」と捉えるのを認めていない辞書(⇒言及されていない・用例がないため)
『明鏡国語辞典 第三版』『学研現代新国語辞典 改訂第六版』
このようにしてみると、「降板」を「責任ある役職をやめること」と捉えてもよいと考えている辞書が多いことが分かります。
私が確認できた限りでは、『三省堂国語辞典 第七版』のころから認められていたので、少なくとも2014年ころ(10年くらい前ですね)には人々の中で使っていたり、見かけたりしていたのだろうと思います。
ただ、「降板」の語釈は辞書によってだいぶ違っていて、単純に「責任ある役職をやめる」という意味しかないものもあれば、「比喩的に、失敗・病気などにより役職を退くこと」(『岩波国語辞典 第八版』より引用)と、より詳細なイメージを持った語釈を掲載しているものもありました。
思うに、野球における投手が降板する状況を踏まえて、このような語釈にしたのだろうと思われます。
『新明解国語辞典 第八版』を引いてみると、「〔野球で〕制球力が無くなったり 敵の猛打を浴びたり して、ピッチャーがマウンドを降りること」とあります。
ピッチャーが交替させられるという状況について、現在は投球数なども関係しているので、必ずしも上記のような理由だけではないですが、元々の「降板」は「何かしらの事情があったために交替する」だったはずです。
そのため、『岩波国語辞典 第八版』のような語釈が出てきたのではないかなと想像します。
何にせよ、「降板」という言葉が野球以外の場面で馴染んできているのは事実のようです。
スポーツやゲームなどで使われている言葉が、日常の中に入り込むことはよくありますが、「降板」が使われ出したのは、きっと野球が好きな人が使い始めたのではないかなと、個人的には思うのでした。
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