3月

Column1 辞書ごとの「俗語」の扱い

 今回は、「俗語」という言葉について書こうと思います。


     ☆


 これまで私の言語シリーズの作品を読んでくださっている方は、「俗語」という言葉を目にしたことがあると思います。


 改めて提示すると、「俗語」とは「世間で日常的に使われる話しことば」(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)のこと。そして、私も基本的にこの意味として捉えて提示してきました。


 ですが、改めて「俗語」という言葉を辞書で引いてみると、辞書によって捉え方が違っており、少し気を付けなければいけないなと思い、取り上げた次第です。


「俗語」の意味は、上記に記した内容のほかに「改まった場では使いにくい卑俗なことば」(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)があります。

 こちらは、例として「やばい」とか「てめえ」とかこういう言葉を示します。


 つまり「俗語」には、「世間で日常的に使われる話しことば」と「改まった場では使いにくい卑俗なことば」の二つの意味があるのですが、辞書によっては後者のみの記載しかないものもあるのです。下記に整理してみました。



●「俗語」を「世間で日常的に使われる話しことば」と「改まった場では使いにくい卑俗なことば」の両方で捉えることを認めている辞書

『明鏡国語辞典 第三版』『新選国語辞典 第十版』『旺文社国語辞典 第十二版』『学研現代新国語辞典 改訂第六版』『岩波国語辞典 第八版』『デジタル大辞泉』『精選版日本国語大辞典』『大辞林4.0』


●「俗語」を「世間で日常的に使われる話しことば」と捉えることは「古風な表現」であり、現在は「改まった場では使いにくい卑俗なことば」として考えている辞書

『三省堂国語辞典 第八版』


●おそらく「俗語」を「世間で日常的に使われる話しことば」と捉えることを認めていない辞書(⇒言及されていない・用例がないため)

『新明解国語辞典 第八版』


 このように並べて見ると、基本的には「世間で日常的に使われる話しことば」と「改まった場では使いにくい卑俗なことば」の両方の意味があると考えているようですが、一方で認めていない辞書や、その表現の仕方は「古風」としているものもあるのが分かるかと思います。


 ちなみに、何故「古風」な表現とされているのかと言えば、「俗語」を「世間で日常的に使われる話しことば」として用いられたのが明治期だったからのようです。

『大辞林4.0』の語釈には「主に明治期に用いられた用語」と書いてあります。


 ただ、『大辞林4.0』の語釈をよく読むとお分かりのように、「俗語が世間で日常的に使われる話しことばとして使」のため、大正・昭和(・平成)の時代がどうなっていたのかは不明です。


 また、「世間で日常的に使われる話しことば」を意味する言葉には、「口語」がありますよね。


「口語」という言葉あるのに、何故辞書では「俗語」という言葉を使うのか不思議ではないでしょうか。これは私の想像なのですが、「口語」というのは「現代人が生活する上で使っている言葉」であり、それは敬語などの表現も含みますが、「俗語」というのはもっと砕けた表現(ex.マジ・すげえ)や、本来の意味とは違った意味として捉えても通じるものを指すのかなと思います。


 ですが、言葉は生き物。

 多くの人が令和の時代に「俗語」を「世間で日常的に使われる話しことば」として用いるのが当たり前となったならば、明治期のように、令和の時代にも用いられていると言ってよいのかもしれません。


 とはいえ、「世間で日常的に使われる話しことば」は「口語」という言い換えもあるので、辞書のでも意見が割れているということを知っているのは大切なことかなと思います。

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