Column3 「唐揚げ」と「竜田揚げ」の違い

 今回は、「唐揚げ」と「竜田揚げ」のお話です。お料理上手な方は、すでに知っている話かもしれませんが、もしよければお付き合いください~。


     ☆


 先日、小学校の教師をしている友人から、こんなことを尋ねられました。


「あのさ聞きたいんだけど、『唐揚げ』と『竜田揚げ』って何が違うの?」


 事情を聞いてみると、どうやら給食で出たものが「竜田揚げ」だったそうなのですが、その日の児童たちの反応が「先生、今日竜田揚げだよ!」「竜田揚げだって、先生!」と、子どもたちがやたらと「竜田揚げ」を喜んでいたらしいのです。


 そのときは「そっかぁ、竜田揚げかぁ」と思っていたそうなのですが、給食の時間に出てきた「竜田揚げ」を見て、これまで一度も疑問に思ったことがなかったのに、ふと「唐揚げと何が違うんだ?」と思ったそうです。それもあって、私に尋ねたとのこと。


 こういうものはネットで検索してしまえばあっという間に答えが出ますが、私も面白そうだなと思ったので、調べてみることにしました。


 さて。

「唐揚げ」と「竜田揚げ」を辞書で調べてみると、次のように書かれています。


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「唐揚げ」……「肉や魚に小麦粉か片栗粉をまぶして揚げること」(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)

「竜田揚げ」……「醤油しょうゆ味醂みりんで下味をつけた鶏肉・魚肉などに片栗粉をまぶしてあげたもの」(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)

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 上記の内容を見れば、基本的に「唐揚げ」は「下味なしで粉をまぶして揚げたもののこと」をいい、「竜田揚げ」は「下味をつけ粉をまぶして揚げたもののこと」をいうことが分かります。


 念のため他の辞書でも調べたのですが「竜田揚げ」に関しては、どの辞書も大抵同じような内容でした。ですが「唐揚げ」については辞書によって微妙に見解が違っていたので、下記に引用してみました。


 まずは、『新明解国語辞典 第八版』から。


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【唐揚げ】『新明解国語辞典 第八版』

ほとんど衣をつけないで(かたくり粉を薄くつけて)揚げること。また、そうした食品。

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『新明解国語辞典 第八版』では、「ほとんど衣をつけない」状態を「かたくり粉薄くつける」としていますね。 最初に引用した『明鏡国語辞典 第三版』では、「小麦粉か片栗粉」としていたので、そこが違う点だなと思います。


 次に、『三省堂国語辞典 第八版』を見てみましょう。


++++++++++

【唐揚げ】『三省堂国語辞典 第八版』

〘料理名〙肉・さかな・野菜などに(味つけをして)、小麦粉などをうすく まぶし、油で<あげること/あげたもの>。

++++++++++


『三省堂国語辞典 第八版』では、これまでの辞書とは違い「野菜」も材料に入っていますね。

 ネットの「唐揚げ」レシピを見てみると、確かに野菜を使ったものがありました。肉や魚だけじゃなくていいということでしょうか。


 さらに『三省堂国語辞典 第八版』には「味付けをして」と書いてあります。

『明鏡国語辞典 第三版』の語釈では、味が付いていないものを「唐揚げ」、味が付いているものを「竜田揚げ」としていたはずです。

 しかし『三省堂国語辞典  第八版』の内容を読む限り、どうやら違うようです。


 もう一つ辞書を見てみましょう。


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【唐揚げ】『大辞林4.0』

小魚・鶏肉などを、何もつけないで、または小麦粉やかたくり粉を軽くまぶして油であげること。また、そのように揚げたもの。

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『大辞林4.0』には「何もつけないで」ともありますね。「何もつけないで揚げる」のであれば、その場合「素揚げ」が当てはまりそうですが違うのでしょうか……。


 さて。

 このように辞書によって解説が違う「唐揚げ」ですが、それもそのはずで、現在の「唐揚げ」と「竜田揚げ」にはあまり差がないと言われています。


 今回、この料理の違いを調べるにあたり「京都料理師専門学校」のサイトを参照したのですが、どうやら料理本やネットで挙げられているレシピを見る限り、味の付いた「唐揚げ」もありますし、味の付いていない「竜田揚げ」もあるとのこと。


「唐揚げ」は、元々「ころもをつけないで、魚肉をあぶらで揚げるもの」(『精選版日本国語大辞典』を参照)のことを言ったようです。どういう過程で、薄い衣をつけるようになったかまでは分かりませんでしたが、もしかすると、「薄く小麦粉をまぶしたほうがおいしい」と分かったため、そういう方針を取るようになったのかもしれません。……私の想像ですが。


 一方の「竜田揚げ」は、食材の臭みをとるために下味をつけたのが始まりだったようです。下味が上手くついていない唐揚げなどを食べたとき、肉臭さがあって食べられないことがあったのを思い出すと納得できます。


 ちなみに、「竜田揚げ」という名前の由来は、「揚げ色が紅色をしていることから紅葉の名所の竜田川にちなんでいう」(『明鏡国語辞典 第三版』より)と言われています。(諸説あります)

 醤油で味付けして揚げた料理が、紅色をしているからと、紅葉の名所の名を付けるなんていきですよね。


「竜田川」は奈良県にある川で、「龍田川」とも書くようです。最近では「竜田揚げ」と書く方が主流ですが、「龍田揚げ」と書くこともあるのだとか。 


 ……ということで、「唐揚げ」と「竜田揚げ」の違い、何となく分かっていただけたでしょうか。


 上記のことを総合的にまとめると「唐揚げ」は、言葉の意味や歴史から考えると「肉・魚を下味をつけずに、そのままの状態で揚げたもの」のことを言うようですが、最近では「肉・魚・野菜について薄く粉をまぶして揚げたもののことをいい、その場合味付けをしている場合もある」ということ。


 一方の「竜田揚げ」は、「肉・魚に醤油とみりんの味付けをして、薄く粉をまぶしてあげたもののことをいう」という感じかなと思います。


 こうしてみると「唐揚げ」のほうが、広義に解釈できるようですね。


 料理というのは地域差があるので、「唐揚げ」とか「竜田揚げ」と一口に言っても枠がバラバラなため、捉えるのは難しいとは思っていたのですが、まさかここまでとは……(笑)

 普段使っている言葉よりもずっと難しいことを改めて感じました。


 でも、料理の名前の由来も結構面白いので、また機会があれば調べてご紹介しようと思います。

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