Column8 「デバガメ」という言葉

 今回は、「デバガメ」という言葉について取り上げようと思います。


     ☆


 ある作品を読んでいたら「デバガメ」という言葉が出てきました。まず、どういう場面だったかを簡単に説明しますね。


「デバガメ」が登場した作品では、Aという人がBの内情を知るために、Bの知り合いであるCにそれとなく事情を聞いている場面で登場します。(補足:A~Cは全員男です)


 ですがCはAの様子から、彼がBのことを知りたいのだと気づいてしまい「回りくどい」というのです。するとAは「はっきり聞いたらデバガメになるじゃないですか」と、直接的に聞かなかった理由を説明するのです。


 これを読んだときに「デバガメ」の意味を知らなかったので、辞書を引いて調べてみました。すると「出歯亀」とあります。意味は「のぞき見などをする常習者」のこと。


 言葉の由来は、「明治時代に実在したのぞき常習犯、池田亀太郎のあだ名から」(『三省堂国語辞典 第八版』より引用)と書いてありました。


「出歯亀」とあるように、池田亀太郎は出っ歯でした。そして名前に「亀」がついていたので「出歯亀」と言われていたのです。


 どの時代にもそういう人がいるようですが、あだ名がそのまま「のぞき見する者」を指すようになるとは、よっぽど人様の生活をのぞき見していたのでしょう。


 さらに調べてみると「明治41年(1908)風呂帰りの女性を殺害した女湯のぞきの常習者」(『デジタル大辞泉』より引用)とありました。Wikipediaの情報では、彼は単なる殺人ではなく強姦殺人を行ったようです。


 池田亀太郎がやったことを考えると、軽々しくは使えないような言葉だと思うのですが、言葉が生まれた背景が消えかかっている(=使い手が知らない)せいなのか、「出歯亀」は単なる(というのも変なのですが)「のぞき見」の言い換えに近いものとして使われているのかな、と個人的には感じます。


 そう思うのは、冒頭に述べた作中で使われていたことと、辞書によっても語釈に幅があるためです。下記に整理してみました。



●『三省堂国語辞典 第八版』……<俗>のぞき見などをする常習者。


●『三省堂現代新国語辞典 第七版』……のぞき見。またその常習者のこと。


●『デジタル大辞泉』……のぞきをする男。また、痴漢。変質者。


●『旺文社国語辞典 第十二版』……女ぶろをのぞき見するなどの変質者。


●『学研現代新国語辞典 改訂第六版』……<俗>女湯などをのぞく、変態的な男。



 比較しやすいように、後半に行くにつれて「変質者」や「変態」という言葉が使われているものを並べてみました。こうやってみると辞書によって印象が違うことが分かりますよね。


 ここでの「のぞき見」というのは「他人の生活などを、こっそり見る」という意味で使われているので、それだけで「変質者」という意味があるのかもしれません。


 ですが冒頭に挙げた作品の内容を読むと、「変質者」として使われているわけではありません。「相手のことを気にかけて、他者に状況を聞いていた」だけです。


 確かにそれも行き過ぎれば、「変質者」になっていくと思いますが、実際はそうではないわけです。そのため「デバガメ」という言葉がふざけた風に使えるのでしょう。


 また、下手をすると相手をけなすことにもなるので、作中で使うとしても中々容易ではないなと、調べて思ったという話でした。

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