Column3 「肝」の新しい使い方

 今回は、「肝」の新しい使い方について取り上げようと思います。


     ☆


 ——ここが話の肝なんだよ。


 皆さんは、「肝」について上記のような使い方をしたことはあるでしょうか。


 ここでの「肝」とは「重要なところ」という意味。

 よく聞く使い方だと思っていたのですが、どうやら「肝」を「重要なところ」として使うのは新しい用法のようなのです。『明鏡国語辞典 第三版』の内容を下記に引用いたします。


**********

【肝】『明鏡国語辞典 第三版』

 ❹〔新〕重要な点。肝心なところ。

「話の肝」

「ここが肝だ」

**********


「〔新〕」とありますよね。つまり、『明鏡国語辞典』にとっては「第三版」が出版したときに新しい言葉として認めたということ。


 これを見たとき、「肝」を「重要な点」とか「肝心なところ」と捉えるのは新しい意味なのだと思ったのですが、他の辞書を引いてみると、すでにその使い方を認めているものもあったのです。下記に整理してみました。



●「肝」を「重要な点」と捉えることを認めている辞書

『明鏡国語辞典 第三版』『三省堂現代新国語辞典 第七版』『岩波国語辞典 第八版』『デジタル大辞泉』『大辞林4.0』『精選版 日本国語大辞典』


●「肝」を「重要な点」と捉えることを俗語として認めている辞書

『三省堂国語辞典 第八版』『新選国語辞典 第十版』


●おそらく「肝」を「重要な点」として捉えることを認めていない辞書(⇒言及されていない・用例がないため)

『新明解国語辞典 第八版』『旺文社国語辞典 第十二版』『学研現代新国語辞典 改訂第六版』



「肝」を「重要な点」と捉えることを認めている辞書が六冊もありますね。

 さらに『精選版 日本国語大辞典』では、1390年頃に使われた用例が載っていました。現代の使い方とは厳密には違うところもあるかと思いますが、語釈に「物事の重要な点。急所」とあったことから、近い意味で使われていたことが伺えます。


 また、『精選版 日本国語大辞典』や『デジタル大辞泉』といった大型・中型の辞書には、当たり前に「肝」=「重要な点」という意味で載っているのに対し、『三省堂国語辞典 第八版』などの小型の辞書では、俗語(=正式な場では不適切)として扱っているというのが意外でした。


「肝」を「重要な点」として捉えることを認めていない辞書も複数ありますが、認めている辞書の方が数を凌駕りょうがしているところを見ると、「肝」=「重要な点」と使うのは広く受け入れられているのかなと思います。

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