Column5 「うがつ」の新しい意味

 今回は、「穿うがつ」の新しい意味について取り上げたいと思います。


     ☆


 ——それは穿うがった見方だ。


 皆さんはこの一文を読んで、どのように解釈したでしょうか。

 もし「それは『根拠のない深読みをした』見方だ」として捉えていたら、本来の意味ではありません。(『明鏡国語辞典 第三版』参照)


「穿つ」には、大きく二つの意味があります。(ここで取り上げる以外の意味もありますが、本筋にかかわらないので省略します)

 一つは「穴をあける」。

 もう一つは「一般には気づかない人間の本性・人情の機微・物事の真相などを的確に捉える」(『旺文社国語辞典 第十二版』より引用)。


 そのため、冒頭の例文を本来の意味で捉えると、「それは『的確な』見方だ」となります。


 ですが、最近「穿つ」について、「根拠のない深読みをする」「行き過ぎだと思われるような解釈をする」という使われ方をするようになってきたことから、辞書によっては、この用法を「新しい意味」として認めているものも出てきました。

 下記は、どの辞書がどこに分類するかを整理したものです。



●「穿つ」を「根拠のない深読み」という意味で捉えることを認めている辞書

『明鏡国語辞典 第三版』『三省堂国語辞典 第八版』『三省堂現代新国語辞典 第七版』


●「穿つ」を「根拠のない深読み」という意味で捉えるのは誤りとしている辞書(⇒はっきりと「誤り」と記載があるものに限る)

 なし


●「穿つ」を「根拠のない深読み」と捉えることについて、語釈では取り上げてはいるが、新しい意味としては認めていない辞書

『デジタル大辞泉』


●おそらく「穿つ」を「根拠のない深読み」という意味で捉えることを認めていない辞書(⇒言及されていない・用例がないため)

『新明解国語辞典 第八版』『新選国語辞典 第十版』『学研現代新国語辞典 改訂第六版』『旺文社国語辞典 第十二版』『岩波国語辞典 第八版』『精選版 日本国語大辞典』『大辞林4.0』



 このように見てみると、三冊の辞書が「穿つ」=「根拠のない深読み」と解釈しても良いとしているのが分かりますよね。


 まだ認めていない辞書も多いようですが、一方ではっきりと「誤り」としているものもないことから、「本来の意味ではない使い方」を「新しい意味」として使うか否かは、書き手の判断に委ねられそうです。


 ただ、「穿った見方」と書くと、本来の意味でもある「一般には気づかない人間の本性・人情の機微・物事の真相などを的確に捉える」としても解釈できますし、「根拠のない深読み」という解釈もできるため、使う際は前後の文章に工夫を凝らしたほうが読者には親切かもしれません。


 ちなみに、平成23年に文化庁が行った「国語に関する世論調査」では、本来の意味である「物事の本質を捉えた見方をする」で使っていた人が26.4%だったのに対し、「本来の意味ではないほう」で使っている人が全体の48.2%でした。この時点ですでに、「本来の意味ではないほう」で使っている人の方が、大きく上回っていたようです。


 古いデータなので、最近はどうなっているのか分かりませんが、私の印象では、今でも「本来の意味ではないほう」を、日常的に使っている方が多い感じがします。


 今後も「本来の意味ではないほう」を「新しい意味」として認めていく辞書が増えるか否か、注目したいところです。

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