11月 —2023—

Column1 「散りばめる」という表記は誤り?

 今回は、「ちりばめる」という言葉について取り上げようと思います。


     ☆


 ――宝石がちりばめられたようなデザイン。

 ――工夫がちりばめられた作品。


 こんな風に、「ちりばめる」という言葉を使うことがあると思います。


 その場合、「散りばめる」と表記をしてしまうこともあるかもしれませんが、これは本来の書き方ではないと言われています。


「ちりばめる」は「鏤める」と書きます。


「鏤」は「鋼鉄」とか「金属に彫りつける」(『角川新字源 改訂新版』より引用)を指し、ここから装飾の意があることが分かります。


 そのため「鏤める」には「あちこちを彫って金銀や宝石を散らすようにはめ込む」「美しいことばなどを所々にはめ込む」(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)という意味があるのです。


 ここから「ちりばめる」は、「鏤める」とするのが標準的な書き方であると言われています。


 ですが、本当に「散りばめる」と書くのはいけないことなのでしょうか。


 複数の辞書を引いたものを、下記に整理してみました。


●「散りばめる(散り嵌める)」という表記を認めている辞書

『デジタル大辞泉』『三省堂現代新国語辞典 第七版』


●「散りばめる」という表記を標準的ではないとしている辞書

『明鏡国語辞典 第三版』


●「散りばめる」という表記を誤りとしている辞書

『学研 現代新国語辞典 改訂第六版』


●語釈には「散りめる意」とはあるものの、見出しには「鏤める」のみ表記されている辞書

『新明解国語辞典 第八版』


●おそらく「散りばめる」を認めていない辞書(⇒表記は「鏤める」のみ)

『新選国語辞典 第十版』『精選版 日本国語大辞典』『旺文社国語辞典 第十二版』『大辞林4.0』『岩波国語辞典 第八版』『旺文社標準国語辞典 第八版』



 このように並べてみると、まだ「散りばめる」という表記は標準的ではないようです。

 確かに「散り」「嵌める」という考え方からすると、「散りばめる」でも問題なさそうに思います。

 しかし「鏤」の漢字に含まれている意味(背景)を考えると「装飾」の意味が備わっているため、「鏤める」の方がいいと考えているのかもしれません。


「鏤める」と「散りばめる」――皆さんは、どちらを使うでしょうか。



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