第2話 萌芽

 4


 そこには“人”が二人。

 片方——キュオシーと呼ばれた方——が口を開いて。

「精神が魂と違えたんだよ」

 一言。どうやら先日のニュースの解説をしているらしい。

 もう片方が、

「もう少し分かりやすく、子どもでも理解できるように」

 キュオシーは溜息をつきながら応じて。

「最初に電脳に移住した第一世代は、当然だけど肉体を持っていた。彼らはその肉体がある間に自己を形成できた、魂の方向性を自分で定められた。

 でも、第二世代からはそんなこと望めるはずもない。知っての通り第二世代以降は自己が希薄だ。生存にシステムのバックアップが必要な通りね。だから周りに影響されやすいんだ。

 と言っても影響は微々たるものなんだけど、それでも数十年あったら話は変わってくる」

 聞き手は熱心に耳を傾けている。

 語り手は飲み物を口に運ぶ。

「影響は勿論精神が受ける。影響を受けた精神はやがて定められた魂の方向性に背反する。

 ある噂がある。システムは産まれた後、例え何があっても魂に手を加えることはない、というものだ。それほどまでに精神は脆いんだ。」

 沈黙。

「でも、そんなの信じられ——」

 キュオシーが遮って言う。

「アーシス、お前の悪いところだよ。現実からいちゃもんをつけて逃れようとするところ」

 痛いところを突かれた、と黙り込む聞き手——アーシスと呼ばれた方——を見ながら続けて。

「だけど今回ばかりは同意だ」

 アーシスは勢いよく顔を上げる。

「あまりに説明不足が過ぎる」

 キュオシーは、とっても悪い顔をして、

「世間の流行に乗って酔狂に走るのも、たまには悪くないと思わないかい?」

 とっても楽しそうに言葉を弾ませた。


 ——でも、これは「ワタシ」が「ワタシ」の視点で切り取っただけの紛い物に過ぎない。


 ***


 話は続く。

「電脳において、人は死を忘れられたはずだった」

「でも現に人は死んだ、そうだろ?」

 キュオシーの言葉をアーシスが引き継ぐ。

「だから運営システムには説明責任を果たしてもらう」

「どうやって? できるのならとっくに先人がいるだろう。

 それともなんだ。まさかハッキングでもするのか? ファイアウォールの厳重さを噂に聞いたこと位あるだろう?」

 冗談を交えたであろうアーシスの発言を、キュオシーは極めて真面目な顔で肯定する。

「そのまさかさ。いくらここからのハッキングが無理でも、電脳と言う空間を運営しているんだ。サーバーは必ず何処かにはある」

「例え地球にないとしても?」

「そうさ。第一世代でない俺たちに活動限界があるとしても、いわばアカシックレコードをお目にかかれるんだ。それだけで一生を捧げる価値があると思わないかい?」

 思わない。アーシスの顔はありありと心情を写していたが、その口元だけは歪んでいた。


 ——それは、本当に?

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