第7話 それでも俺は…


「お兄!今、何時だと思ってんの!」


慌てて妹は俺の部屋に来て言った。


「何時って、すまんこんな時間まで寝てたみたいだ…」


携帯を見てみるともう3時になっていた。


「私とお母さんが朝早くに出かけて帰ってみたら寝てるとか、普通に死んだと思ったんですけど…」


「マジですまん、昨日は疲れたからな…」


俺は全ての記憶が戻ったみたいだな、彼女がカフェ屋さんでバイトをしていたのも覚えてる。


だけど、俺だって……


「今から、出かけてくる。」


「ちょっと待って!」


 俺が部屋から出て行く前に妹に止められた。

妹は手を全開に開きドアを塞いだ。


「なんだよ……」


「知ってるよ、七夕さんはお兄の彼女じゃないんでしょ?私、昨日服屋さんの時に教えてもらったの!」


「そうだったんだ……」


「お兄! お兄は優しいからどうせ七夕さんに会いに行くんでしょ!そんなことはしないで… あの人はお兄が記憶を無くしてるからって、彼女のふりをしていたんだよ。」


「あぁ、そうだな… 」


そんなことは俺だってわかる。


だけど、彼女は俺が好きだったから俺の彼女のフリをしてででも俺の隣にいたかったんだろう?


 それぐらい、小説や漫画を見てるんだ自分で言うのもなんだがわかる。


だけど、俺だって彼女が好きだ。


今まで優との合流場所として、コーヒーを飲みに行っていた。


だけど、彼女と出会ってからは違う。


俺は彼女との時間が好きでもあったから行っていたんだ。


「俺は行くよ。彼女が嘘をついていたとしても、それなら本当に付き合えばいいだけだろ?」


 俺は部屋を後にし、階段を降りて玄関のドアを開け走った。


「私の兄ながら変な考えで行動するみたいだな…告ってもないのに振られたみたいな感じがする…」


俺は走りながら電話をかけた。


それでも彼女はやっぱり出ない。


これじゃあ、走ってる意味がないじゃないか……


どこかで合流したかったが…


そうだ!…



彼から電話が来てる。


これさえ出なかったら彼とはもう会えない。


そんな時、私の部屋のドアが開いた。


「電話に出てよ。七夕さん」


「え!?、なんでここにいるの?私の家なんか教えてないよね」

カイは汗だくで膝に手を当てて息切れをしながら言った。


「カフェ屋さんに行ったんだ。それで七夕さんの家を教えてもらって家の人にあげてもらったんだ。」


「そうなんだ。」


私の家はおばあちゃんと二人暮らしだからおばあちゃんだったらあげてあげるだろう。


「彼氏って言ったらすぐにあげてもらったよ。

俺も嘘をついてここまで来た。これでおあいこだね。」


「そんなんじゃ、おあいこになんかならないよ。私がやったのはもっとひどいことなんだよ。」


「そうかもしれないね… でも七夕がもし、事故にあって記憶を無くしても俺はおんなじことをしたかもしれない。」


「え?」


「だって俺だって七夕が好きだよ。カフェで話してた時の七夕も、彼女のふりをしていた時の七夕も。俺たち狂ってる同士だね…」


「それでも私はもう、君と話したくないよ……」


私は自分が嫌いだ…


カイくんは優しすぎるだけなんだ。


私は甘えちゃダメ。


「ねぇ、七夕。本当に付き合ってみない。嘘じゃなくて…」


私は……


今まで間の彼との時間が脳裏に響く


私の嘘を神が許してくれなくてもそれでもカイくんともう一度……


七夕は、涙を出しながら震えた声で言った。


「私もカイくんと本当の恋人になりたい。」


俺は七夕を抱きしめた。


暖かい……


それにいい香りがする。


それよりも、俺は彼女の涙を忘れないだろう


その後、グループラインに付き合ったと報告した。


そういえば、優には言ってなかったから後ほどカフェで3人で話した。


「お兄! 今日は七夕さんとデートなの?」


「あぁ、今から行ってくる。」


やべぇ、ちょっと遅れそうだ…


カイは急いで待ち合わせ場所に向かった。


「待たせたか?」


彼女は待ち合わせ場所に既にいた。


「いや、今来たところ。そんなに走らなくてもよかったのに……」


「いや、俺たちの本当の初めてのデートの日だからな…」


「そうだね」


彼女、今まで以上の笑顔だった。


俺たちは手を繋いで歩き始めた。


「じゃあ行きますか」


「はい」


これはただ彼女と付き合い始めただけのまだ始まってもいない話だ。


この頃、幾つもの出来事が起き、幾つもの試練を乗り越えて本当のパッピーエンドになるまではまだまだ後の話だ。

 

 

 

 

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記憶を一時的に無くした俺には彼女がいるみたいです。 アイテム @kuma0817

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