第2話 偶然の出会い
ちらちらと揺れるたき火を見ながら、俺がぼんやりと物思いにふけっていると不意に頭上から声が降って来た。
「こんばんは。日中はすごい暑かったけど、夜は涼しくて気持ちがいいね」
聞き覚えのある親しげな声に、驚いて顔を上げる。
そこには、先程思い出していた小学校からの幼馴染で、今は高校のクラスメイト『ホシコ』こと
胸元に犬の写真がプリントされた白いTシャツに濃紺色のGパン。
さらさらのストレートの肩までの黒髪が夜風に乱れ、片手で抑えている。
大きな丸い目に、桜色の唇。
クラスで2番目くらいにかわいい子だと、安達の野郎は言っていたが、あいつの目は節穴だ。
ホント、馬鹿じゃないのか? どう見たって、クラス一どころか、学年一かわいいだろうが!!
俺は、小五の三学期に、ホシコが転校してきたときから、ひとめ惚れなんだよ!
しかし、なぜホシコがこんなところに?
しかも、はにかんだ様な笑顔が眩しすぎる。
夢か?
こんな高原のキャンプ場に、疎遠になっている幼馴染で片想い中の同級生の女子と偶然に出会うことなんてあるだろうか?
夢に決まっている。
「なんだか森の匂いがして、ここは落ち着くね。
ねえ、大地君は夏休みの宿題もう終わった?」
俺は、目を擦りしばし呆然とする。
「夢じゃない……」
「ん? 何か言った?」
「あ、いや。ホシ……っじゃなくて、北野はなんでこんなところにいるんだ??」
俺は、あやうく親しげにあだ名で呼んでしまうのをぐっとこらえた。
小学生の時は、ホシコ、大ちゃんと呼び合う仲ではあったが、あれからもう5.6年たっている。
もう、そんな風に呼び合っていい仲ではない。
「今日は部活の観測会。私、天文部なんだ」
そう言って、ホシコははるか彼方に小さく見える黄色いテントを指差した。
どうやら、あれが天文部のテントらしい。
そうか、本当に偶然の出会いなんだな。
それにしても、この広いキャンプ場で俺がここにいることがよく分かったな?
多少、不思議にも思ったがやっと巡って来たホシコと話せるチャンスに、俺は舞い上がってそれどころではない。
何か、気の利いた話題を話さなければ、会話が終わってしまう。
しかし、ホシコの笑顔を前に、俺は何を話していいか分からず途方に暮れた。
救いの手はホシコから来た。
「大地君は、今日はぼっちキャンプ?
ひとりで寂しいなら、少し話相手になろうか?」
「別に、いつも一人でキャンプしてるから寂しくは……」
笑顔のホシコに見つめられ、急に恥ずかしさがこみ上げ反射的に返事をしたが、その返事を途中で飲みこむ。
あぶねっ!
そんなこと言ったら、会話が終わってしまうではないか!
「なんでもない。それより、『ぼっち』言うなよ」
「え? ぼっちキャンプでしょ?」
「違う。『ソロキャンプ』だ」
「ごめん、ごめん。
ソロキャンね。ソロキャン」
ホシコは、あまり悪びれなく上機嫌でそう言った。
なんだか会話が成り立っている。
これは、近年まれにみるいい雰囲気なのではないか?
俺は、希望に胸を膨らませながらたき火に薪をくべた。
少し、炎が大きくなる。
「たき火、なんかいいね。キャンプって感じがする。
木の燃える匂いとか、炎がちらちらするのとか。すごく落ち着くね」
そう言って、ホシコは俺の隣に座った。
会話が途切れたらすぐに、去ってしまうと心配したが、これはたき火効果か!?
座ったということは、すぐに行ってしまうことはないのだろうか?
「ああ、そうだな」
俺は、たき火の感想を聞かれたと言うのにうわの空であいまいに返事をする。
「ねえ、大地君は星は見ないの?」
「星空がキレイに見えるなって思うくらいで、あんまり興味はないな」
それを聞いたホシコは、急にスイッチが入ったように、勢いよく話し出した。
「ええっ! もったいない。それは実にもったいない!!」
な、なんなんだいったい??
ホシコ、急にどうした!?
「あの星空には、銀河には、宇宙には夢とロマンが詰まってるんだよ?
天体観測は、古代エジプトから始まってるすごいことなんだよ!」
偶然の出会いから、天文解説が始まろうとしている!?
いや、もっと何かすごいことが起こるような予感がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます